第44話 革命の第一歩

 ...それから一週間の間、この世界は過去に類を見ない『革命旋風』に巻き込まれた。蠅の出したネットニュースが全世界へ配信された事により、各地で世界政府への批判・反対デモが次々と起こった。その結果、政府の苦渋の決断により各地の施設に監禁されていた半人族の開放が一斉に起こり、半人族の多くの者が市街地へ現れるようになり、社会全体であった半人族の完全な差別はある程度軽減されたのだ。その他にも政界のトップ層だった人物の複数交代や、それに伴う政府の活動方針の変更など、数々の大きな出来事が起きた。後にこの出来事をまとめた総称を、出来事が起こった時期と『D.o.G』の名前になぞらえて『ハロウィン・ハウンド革命』と呼ばれるようになった...


 「よっしゃぁ〜!!俺たちの勝利だ、今夜は勝利の宴にするぞ〜!!」

『かんぱぁ〜〜い!!』ケープさんやその他の仲間たちが、村の住人を集めて宴を開いてくれた。村の皆は、今まで見ることのなかった達成感の笑顔で溢れていた。中には感動のあまり、声を上げて泣いている者もいた。

「良かったね、目標だった革命が起きて!...僕も、すっごく嬉しいよ!」僕はつい嬉しくなって隣にいたスケイルズにこう言った。しかし、彼の表情は皆と違い、そこまで嬉しそうではなかった。

「んっ...どうしたんですか?そんなに浮かない顔して」

「まだ目標は全て達成したわけじゃない。これはあくまで『第一ステップだ』。こんなに浮かれてちゃ、先が思いやられる。...ただ。」

「ただ...?」

「世間の意識を変えれたのは事実だ。...五年、五年を使ってようやく一歩を踏み出せた。長い一歩だ。だがこれで証明されたんだ。『俺たちには、政府を倒せる可能性がある』って事がな!」その言葉を言うスケイルズの表情には、未来への希望が確かに宿っていた。


 「あはぁ〜!そうだな、俺たちはいつか必ず、あの政府を倒すんだよ!」既に酒で酔っていたレオンが話に割って入ってきた。一緒に飲んでいた一角さんはクスクスと笑ってレオンを介抱した。

「これはこれは!随分と飲んだじゃないかレオン。だが、この酔い潰れ楽しむ姿を見れたのも、未だかつてないほどの幸せだな。」

「幸せ...?そうだ、俺らは幸せなんだよ。この幸せ、奪われたくねぇよ!ウップ...」...どうやらレオンは酒癖がそこまで良くはないんだなというのを、僕はそこで初めて知った。


「な、なぁ...人間...」宴が中盤に差し掛かったあたりで、突然ミケが恥ずかしそうに僕の服を引っ張って声をかけてきた。

「ん?なんだ、ミケじゃないか。どうしたんだ?」

「その...あの...ヴォイドとの戦いの時は...あ、ありがとな...お陰で助かった...」

「えっ...?あっ、あ〜あれか!いやいや、こっちもミケのおかげで助かったよ...ありがとう。これで僕たちは、”相棒”だな。」そう言って僕は握手を求める手をミケに出した。すると、ミケは顔をカーっと赤くして言った。

「っ...!に、人間と馴れ合う気はない!こ、これはその、礼を言いに来ただけだ!勘違いするなよ、このバカ人間!!」そう言うと、ミケはそそくさと走って行ってしまった。

「え、えぇ〜?」

「ハハッ!ミケ君ってあぁみると、まぁまぁツンデレだよね〜。でも煉瓦君にとっては、良い相棒かな?」蠅が僕らの一部始終を見て、そう笑って呟いた。

「まぁ、そうですね。ハハ...(な、何だったんだあいつ...?)」僕は苦笑いをした。


「...そういえば、SPECは結局活動停止になっちゃったらしいよ。何だかそこはしっくり来ないよね。折角最後は僕らと協力して政府に勝てたのに...」蠅は気付いたように話を切り出した。するとスケイルズは、温かいコーヒーを一口飲んで言った。

「ごくっ...それは別に関係ないだろ。あの組織の根本は警察、俺らの敵だからな。まぁあのリーダーの女は実家にでも帰ったんじゃないか?あの公開処刑の時に俺とすれ違ったんだが、『これでいい休暇になります。』ってニコニコで言ってたし...」


一方その頃、波乱のニュートシティーから遠く離れた地域にあるのどかな故郷、『ドラゴニア』に帰省した夏月と冬牙は...


「ただいまー!!お母さん、お父さん、久しぶりー!」ドアを開けて実家にいたのは、かつて世界から英雄団と呼ばれた『五代竜』の元リーダー、フォールデウ・ヴァステルと元メンバーで妻の水波みずはだった。

「おかえり。今までよく無事だったな、ふたりとも。元気そうで良かった。元気な我が子に会えて、俺は嬉しいよ。なぁ、スイ(←水波のあだ名)。」

「あのニュースを見た時は自分の目を信じたくなかったわよ...本当に良かったわ。冬牙、ちゃんとおねぇちゃんと仲良くやってたでしょうね?」

「あ、当たり前でしょお母さん!もう、僕を何歳のどんな奴だと思ってんのさ!」

「それもそうね!」

『アハハ...!!』家族との何気ない会話をしている時の二人は、警察の『SPEC』の夏月と冬牙ではなく、優しい普通の家族の娘と息子になっていた。こので居られるこの空間が、二人にとっての幸せの空間であった。


「夏月、冬牙。キールと会ったんだってな?昨日あいつから郵送で、二人宛にお菓子が届いてたぞ。『二人によろしく!夏月ちゃん、ホントにメンゴ!(-.-;)』って書いてあったんだ。」そう言うと、ヴァステルは可愛くラッピングされたお菓子を夏月に渡した。

「全く...あいつはいつまで経っても面白い奴だな。今度、ドラゴニアのおいしいお酒をあいつに送るか?」それに夏月は、好きなチョコのお菓子をじっと見ながら言った。

「良いかもね、あの人お酒好きそうだし。...お菓子、美味しそう。」


 その頃、E地区の作戦基地に戻ったキールは、くしゃみをしていた。

「へクション!ブェックション!はぅ...誰かに噂されてんのかなぁ...」

「そうかも知れないですね〜。キール団長は、あのネットニュースで大きく取り上げられていた人物の一人でしたから。まぁ、そもそも取り上げられる前から有名人でしたが...」トロール副団長は少し微笑みながらそう言った。


「あの...一つ聞きたいんですけど。結局、あの革命軍は倒せたんですか?元の目的はそれでしたよね?」トロールがそう不意に聞いてみた。するとキールは、渋い顔をしつつ、頭をかきながら言った。

「ぜ〜んぜん、一人しか倒せなかったよ。彼らは結構強かったし、あの組織にいた『世界で一番ずる賢い奴』にまんまと騙されちゃったんだよね。まぁ、そもそも倒すつもりはこれっぽっちもなかったんだけどね?俺、政府の事嫌いだし、従う気もさらさらなかったしねー。」

「そ、そうですか...(この組織の大本って、一応政府なんだけどな...)」トロールは心のなかで首を傾げながらも相槌を打った。


 その時、一人の若い団員が顔を真っ青にして部屋に入ってきた。

「大変です、キール団長!この基地の周りに多くの反政府軍がやってきました!どうかここは1つ、団長のお力を!」するとキールは刀を持って立ち上がった。

「そうか。...そういや、反政府軍もここ最近で一気に勢力が増したよな〜...(もしかして、あの演説のせいかな?)。はぁ〜...よーし、まだ一回もこっちで戦ってないし、いっちょ活躍しちゃいますか!」そう歩く英雄の体からは、強い正義の心と熱い魔力がにじみ出ていた...


 この世界は、確かに暗いしどうしようもないかもしれない。でも、この世界でもがいている人達が居るのを知った。今は胸を張って言える。『この世界は泥臭くて、綺麗だ』って。


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カルマの断罪 川野 毬藻 @kawano_marimo

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