第43話 願う未来への演説

 あの会議から3日後...A地区の中心地には、捕らえられた『D.o.G』のリーダーであるスケイルズの公開死刑を一目見ようと、多くの人間が街にある執行所に集まっていた。マスコミも民衆も、革命軍の野望の終わりをいち早く報道しようと、多くのカメラを持ってその瞬間を今か今かと待っていた。


 「準備が整いました。これでいいですか?」夏月は陰で政府の上層部の人間と会話をしていた警察庁長官に言った。

「あぁ、大丈夫だ。いや〜夏月君...君らも大変だったろう、今年いっぱいは組織の活動を一時休みにするから。来年までは家族とかとの時間で体を十分に休ませなさい。...いいね?」

「...分かりました。では...」そう言い、夏月は踵を返して歩いていった。その後、急遽作られた高い断頭台に、手錠を付けたスケイルズが重々しく上がった。僕は、その光景を集まる人の中から隠れつつ見ていた。

「(本当に平気なのかな...不安だ...)」僕は一人、ここから何が起こるのかを不安がっていた。


 「予定時刻になりました。これより、原告スケイルズの公開処刑を行う。執行官、火矢を構えろ。」執行官長が言うと、断頭台の下に並んで立っていた執行官が一斉に魔力で作った火の矢を構えた。すると、スケイルズはおもむろに手を挙げた。

「ごめん...一回待って欲しい。ちょっと、死ぬ前に遺言を残したいんだ。なぁ、そのメガホン貸してくれ。」スケイルズはそう言い、執行官長に手を差し伸べた。渋々それを受諾してもらい、手錠を付けたままメガホンを持って断頭台の縁に立った。その遺言を聞こうと、多くの人やマスコミは静かに耳を傾けていた。


 「あー、よし...え〜どうも、『D.o.G』の創設者のスケイルズです。今回は私の公開処刑に集まっていただき、大変感服しております。えぇ〜そうですね、まずは...そうだな。何から言うべきか...仲間に言い残した事とか、後悔した事とかかな?」そう会話を始めると、その場で見ていた一人の民衆が野次を飛ばした。

「うるせぇ!そんなどうでもいい事聞きにきたんじゃねぇよ!くだらねぇ事言うんだったら、さっさと死んでしまえ、この殺人犯が!!」すると、多くの人間がそれに押されるように次々と野次を飛ばした。すると、スケイルズはメガホンのボリュームを最大まで大きくし、その民衆に叫んだ。

「静かにしやがれ!!この無能どもが!」その瞬間、野次がピタッと止まった。


 「殺人犯...犯罪者...社会のクズ...ここにいるお前らは今までに何回この言葉を言った?何も知らないくせに、偉そうに何回言ったんだ?自分に聞いてみろ!いいか...今から話す事は全て、本当の事だ。お前らはその事を知っていて、さっきの言葉を言ってたかを思い返すんだな。」そう言うと、スケイルズは深呼吸をして話を続けた。


「我々『D.o.G』は、政府の転覆を企み、政府が行ってきた数々の事件や犯罪にならない影の悪事を止めてきた。時には世間での虐待や宗教被害などの事も解決してきた。そこで聞きたい...これを聞いている、お前ら全員だ。今の世界は、本当に平和か?何のいざこざもしがらみもない、全員が幸せに暮らせるそんな理想郷か!?俺は全く違うと思うね。陰でいじめや虐待、マフィアとの違法取引や宗教団体の金銭被害、そしてそれを黙認し、助長する世界の今の実態!...こんなのが無尽蔵にあるこの世界が平和じゃないと訴えて、何がおかしいんだ?」その時、驚いていた警察庁長官に政府の上層部の老人が耳打ちをした。

「早く殺せ...耳障りだ。」

「は...はぁ...しかし、アレでは...」


 「我々は主に半人族で構成されている。人間の、ただ普通に生きるという当たり前の権利を守るためだけに、今の半人族の理不尽な世界的差別があるのも、本当の平和じゃないと俺は思う。そう...平和なんかこの世にないんだよ。この世界は理不尽と無情の政府に管理された世界だ。全ては政府の良いように回り、お前らはそれに踊らされている。こんなのが正しいなんて、間違ってると思わないか?我々『D.o.g』は、その世界を本当の平和に変えるために日々命を賭けてこの世界の大きな悪と戦っているんだ。...それの何がおかしい?悪を変えるために戦う奴の何がおかしいんだ?」最初はただの泣き言だと思って聞いていなかった聴衆たちも、いつしか何も言わず、スケイルズの言葉をじっと聞いていた。


 「今回の戦いの全ての元凶は、俺たちの他に、『SPEC』、『ドラゴニスタ政府軍』の事も潰そうとした政府の上層部の思惑だ。ネットニュースを見れば、その真実が分かるだろう。」そう言われて僕は自分の携帯で調べた。その記事を見て、民衆は皆驚愕した。政府のネットニュースには、今までに政府がした悪事が書かれたニュースが次々と掲載されていたのだ。実はこの時、裏で蠅が政府のネットニュースをハッキングをし、この情報をネットに流していたのだ。


 「何をしてる...?犯罪者の言い訳などどうでもいい、早く殺せ!!」

「っ...や、やれ〜!!」執行官長が指示をすると、執行官は一斉に火の矢を撃った。

焔龍之両翼フレイム・ウィングズ!」しかし、その矢は突然現れた炎の壁で阻まれた。

「な、何!?どうなっているんだ、これは!」

「思い通りにはさせませんよ。長官殿。」微笑む夏月が歩み寄りながら二人に言った。

「警察の偉い人、それに政府のジジィ。そんなに殺したいって事は、あの男に言われたくない事があるって事かな?」その時、その二人の背後にキールが刀を持って現れた。

「な...き、貴様、キール!?」

「無駄な抵抗はしないでください。長官殿、あなたももう終わりだ。」夏月がそう言うと、周りからぞろぞろとSPECのメンバーが現れた。

「くっ...お前ら...!」

「どうだ?これがお前らの僻んだ奴らの強さだぜ?」

「く...クッソォ...」


 「いいか、これを聞いている人たち。世界は今も政府の思うように動いている。それは、俺ら民衆が自らの意見を持たないからだ。何の関心も持たず、多くの人が支持している物を支持し、人気な物を使い、多くの人が叩けば自分も同じように叩く。前に習って生きていては、いつまで経っても願う平和や自由はやってこない!!願うなら動け!行動を起こすんだ!その思いは、誰にも邪魔する事のできない、強固なを宿すんだ!」その主張が終わったのを確認したボンビットはニヤリと笑った。

「へへ、そのズボラな断頭台。俺が壊してやるぜ!ほらよっ!」すると、スケイルズが乗っていた断頭台が大爆発を起こした。スケイルズは飛び降りながら、付けられた手錠を持っていた針金で外し、そのまま一目散に逃げた。爆発に驚いた聴衆やマスコミは錯乱状態になり、会場辺りは滅茶苦茶になった。


 「はぁ...はぁ...スケイルズ...こ、これで良かったの?」僕は必死に走りながら隣のスケイルズに尋ねた。スケイルズは前を見ながら、笑顔でそれに答えた。

「あぁ、これで俺等は勝った。この戦いにな!」そのまま僕らは駆け足で裏町に続く森に逃げた。


「ふふっ...本当に面白い事をする奴らだ。まさかこんな逆転劇を思いつくとはな。」キールは、爆発して燃える断頭台を見て、そう嬉しそうに呟いた。

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