第42話 混乱渦巻く三つ巴会議
焼け野原に一人倒れていた一角は、ふと今までの思い出を走馬灯のように思い返した。体には力が入らず、持っていた
「また...吾は負けたのか...ハハッ、なんとも滑稽で無様な姿だ...三十年経っても尚
、お主には勝てないのか...」一角はそう言い、青く無限に高い空を見上げた。点々と白い雲が、目的地もなく歩くように空を動いていた。
「...ん?あっ、あ〜思い出した!あんた昔いたあの人斬りの男か!顔が老けてたから気付かなかったよ!」キールは、倒れている一角を見て初めて昔の事を思い出した。それを聞いた一角さんは微かに笑った。
「ふん...今更気付いたか...だがもういい、吾はお主に二度も負けたんだ...覚える価値もない弱者だ...」そう言うと一角は、キールの目を見て言った。
「1つだけ...お主に頼みがある。吾をここで殺すかわりに、他のメンバーにはもう手を出さないでくれ...」
「はっ!?い、一角さん!!何いってんだよ、そんな事言わないで下さいよ!!」車から降りてきたレオンはそれを聞いて、すぐに一角に叫んだ。
「そうか...何でだ?」キールは真剣な雰囲気に一変し、手に刀を持ちながら尋ねた。その時、一角は木の割れ目のような細目から、大粒の涙を流しながら答えた。
「吾は負けた剣士だ。死ぬなら...せめて一人で...お主の刀で死にたいんだ。そうじゃなきゃ...昔の友に顔向け出来ない...」
「へぇ〜...そうなんだ。」すると、キールは出していた刀を鞘にしまった。その行動に、その場にいた僕ら全員が疑問の念を抱いた。
「な...何故殺さない...?」一角さんは目を白黒させながら尋ねた。その時、キールはプフっと笑って言った。
「何いってんだ、死ぬ必要はないよ。お前、すげー面白いからな!それに...その友も、ここにいる仲間だって、まず仲間のお前に死んでほしくは思わないだろ?」その瞬間、一角さんの視界で、目の前に居たキールとかつての旧友の姿がピッタリと重なった。
「生きろ。お前は強いんだ。ここで死んじゃったら、またこうして戦えないだろ?」
「(は...はぁ、なんて男だ...)...ふふっ...吾の、完敗...か。」
そうして、一角さんを抱えて村に帰ろうとした僕らだったが、それをキールがおもむろに呼び止めた。
「おいお〜い、ちょっと待ちな坊や達。まだ後始末が終わっちゃいないぜ?」キールはそう言って辺りをキョロキョロと見渡した。自分たちの周りには既に、多くの野次馬やマスコミのカメラが沢山いた。そしてキールは、呆然としていた夏月たちを見てこんな事を言い出した。
「どうだ夏月ちゃん、一度俺とあっちの代表者とで会議でもしようじゃないか?とりあえず、ここじゃ話しづらいし、この邪魔なのを撒くぞ。」
「えっ?は...はい...分かりました。」その承諾を聞くと、キールは自身の魔力で、辺り一面に大量の白煙を発生させた。それを聞いたSPECのメンバーは、その白煙に紛れつつキールの後を追いかけた。
「ど...どうするんですか...?僕らも行かなくちゃ...」僕が焦る表情でスケイルズに尋ねると、彼は自信満々に答えた。
「あぁ、そうだな。俺等も行こう!煉瓦、蠅。お前らと俺だけでいい。後の奴らは村に帰って良いぞ、怪我人はテディの闇病院へ急げ。」
「分かった...よし、みんな。急いで帰るぞ。村が街の人間にバレるのはマズイからな。」そう言うと、ケープさんは皆を連れて裏町の中へと逃げていった。
...数時間後、C地区の郊外のドラゴニスタ政府軍の地下施設にやってきた僕らは、怪我が深刻だったヴォイドを除く『SPEC』のメンバー全員と、ドラゴニスタ政府軍の団長キールという異色のメンツで、重々しく会議を始めようとしていた。
「(あ〜...き、緊張する〜...)」
「よ〜し、まずは両者に、この戦いの目的を教えてもらおうか?夏月ちゃん、SPECサイドはこの戦いで、最終的に何をしたかったんだ?」キールが司会者となり、この会議はぬるりとスタートした。問われた夏月は、予め作った台本があるかのようにスラスタと話し始めた。
「私達は凶悪犯罪を未然に防ぐため、政府の転覆を狙ったという容疑がかかっていた『D.o.G』の抹消を計画していました。」
「ふむふむ...え〜っとそっちは?」
「俺等はあんたらの言う通り、政府の転覆が目的だった。今まではそれにつながるために、政府絡みの事件を専門に潰してた。今回の火種になった原因はイマイチ分からないが、少なくともただの無益な犯罪じゃないぜ?」スケイルズはイスにもたれ掛かりながら言った。
「私達が要請を言われたきっかけは、牛飼議員の殺害事件ですね。その後の宗教団体襲撃事件で、私達は本格的に政府から抹消の要請を受けたんです。あなた達がその団体を襲撃しているっていう情報がその時に入ったんですよ。」
「はぁ?それは間違いだな。俺等はあの宗教団体の調査をしていたんだ。あの団体が政府と汚い取引をしていた所までは分かったんだが...お前らの邪魔が入ったせいで俺等の組織の構成員が二人死んだんだ。それを隠して棚に上げるなよ。」スケイルズがそう言うと、SPECサイドのメンバーが首を傾げた。
「邪魔?何を言ってるんですか...?私達はあなた達との接敵以前にあそこに行っていませんよ。そうですよね?辻猿、ボンビット。」
「はい、私達はあの時、初めてあそこの事務所に行ったんです。そこの怪力のヤツと老いぼれと戦う前は、一度もあの事務所に行ってない。その構成員の殺害とやらに、私達は何一つ関与していないぞ。」
「え?じゃあ一角さんとレオンが言ってたバラバラ死体は、誰の仕業なんだ?」
「んなこと知るかよ。俺等は政府の要請をそのまま受け取って、素直に現場に行っただけだ!理由の分からない事をべらべらと言うんじゃねぇよ。」僕らが言い合っている間に、キールは夏月に質問していた。
「ねぇねぇ、さっき言ってたけど...政府直々の要請があったのかい?実は、俺もそうなんだよ。E地区の紛争を止めている真っ最中に、何故か政府の手先の奴に呼ばれたんだ。魂だけの、良くわからない秘書官の女に。」
「え!?キールさんもなんですか!?私もなんです...不気味な女性秘書官が真夜中に突然やってきて、私に事件の報告をしてきたんですよ!」その時、会議に居た全員の頭の中に疑惑の念が自然と浮かんだ。噛み合わない会話や解釈にジワジワと戸惑いを感じていたのだ。
その時、スケイルズはある1つの憶測にたどり着いた。
「政府の同時要請、突然の捜査要請、謎の殺害...もしかすると、俺らは皆、政府に操られたんじゃないのか?」向かい側に座っていた冬牙は、その意見に素早く反論した。
「操られた?何でそう思ったんだ。僕らと『D.o.G』は警察と革命軍、明らかな敵対関係だ。キールおじさんだって、秩序を守る点では僕らと同じサイド。この2対1の対立構造は、特に何もおかしくないと思うんだけど?」
「そうですよ、私達は何も間違った行動はしていません!一体何がおかしいんですか?」夏月が問うと、スケイルズはニヤリと笑って言った。
「そうそう。表面上はココに居る全員が、どう見ても正しい行動をしている。だが、あんたら『SPEC』は警察の中でも陰の組織で、かつ警察の根幹に関わる事を多くしてきた。それにメンバーの多く...特にそこの二人は、親の七光りで大きく出世しているのも事実だろ?その行動を恨む人間は、ある程度は警察の身内にもいるんじゃないのか?」
「えっ...そ、そんなワケ...」その問いに、夏月と冬牙は何も言えずにうろたえた。それを見たスケイルズの視線はかつての職業癖で鋭くなった。
「どうやら心当たりがない訳じゃないみたいだな。キールさんもその類ですね。『五代竜』での数々の実績や今の役職上、世界政府の上層部でも手に負えない。そのくせかなり自由に行動してるみたいですし...政府でも毛嫌いする奴が一人ぐらいいるでしょう。どうです?心当たりは?」
「まぁそう言われてみれば無くはないけど...あの政府がそんな事をするのかな〜?」キールが腕を組みながら言うと、スケイルズは蠅の持っていたパソコンを使って何かを調べ始めた。
「な、何を調べてるんですか...?」僕が尋ねると、スケイルズは言った。
「ネットニュースだ。おそらく、今回の戦いは政府の仕組んだ『罠』。俺等全員を嵌めるための策略だったんだ。」そう言うと、スケイルズは政府の出すネットニュースを見て確信したように言った。
「ほらな、思ったとおりだ!」政府が主体となっているそのネットニュースには、僕らの事に加え、『SPEC』の数々の隠蔽行動、更にはキールさんの行動を批判するような書き込みが、嘘を交えてやや誇張されて書かれていたのだ。
「はっ!?な、何だよこれ...意味分かんねぇよ!俺らが『破壊集団』だって!?冗談じゃねぇよ、クッソ!」それを見たボンビットは激しく激昂した。それもそのはずだ。彼らはあくまでも警察組織、世間一般で言う『正義』だ。今までの行動を全否定するその悪意ある言葉は、SPECのメンバー全員に刺さるナイフだった。
「なるほど...君の考えた憶測がようやく理解できたよ。全く...政府の偉い連中はどこまで行っても腐った奴らだね。自分たちの考えに従わない奴や気に食わない連中は皆、犯罪者と一緒ってか?」キールは変にすましたような顔をし、諦めの念を込めた言葉を言った。
「どうするんですか?この記事を書いた会社に、今から直接乗り込むんですか?そうでしたら、私一人で今すぐに行ってきますよ。この記事を書いた奴らをボコボコにしてきますから。」辻猿は殺気を放ちながら尋ねた。スケイルズはそれを軽く一蹴して言った。
「ハハッ!そんなんでこの記事の影響は無くならねぇよ。ネットで拡散された情報は、嘘だろうがなんだろうが一気に広がる。政府の思わせたかった俺らの『悪者の理想像』は、これで全世界の人間に一気に拡散されたって訳だ。ネットに情報をばら撒くって事は...例えるなら、色んな種類の油が混じった湖に火の付いたライターを投げ込むようなもんだ。その湖を、一面の炎の海にするのと同じ...これが消えない『デジタルタトゥー』ってやつさ。」その言葉通り、ネットでは僕らの事や『SPEC』、『ドラゴニスタ政府軍』についてありもしない支離滅裂な事が沢山でっち上げられており、世界各国で大炎上していた。政府の策略は、ネットで僕らを大炎上をさせることでの組織の失墜が目的だったというのを、そこにいた全員が気付いた。
「どうするんだ?...このままじゃ僕らは、全世界を敵に回すことになるよ。」横にいた蠅は皆に尋ねた。全員が困惑している中、スケイルズは手を挙げてこう言った。
「1つ良いことを思いついた...俺を、公開死刑にしないか?」
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