第11話:蒼介、頑張る


「や、は確認できんやったんやけど」

「……」

「多分そうなんよね」


 これは……どこから突っ込めばいいのか。俺が死ぬ? トラックて。はねられたってこと?

 突っ込まれたの俺かよ、ってうぅわ、くっだらねぇことを。


 で、犯人は朱里だと?

 免許あんの? おい同い年。

 つか、一緒にいたじゃん。


 唖然としながらも頭の中はお喋りだ。

 あん時、と普通に思い返せたのは上回る発言のおかげだろう。

 俺が朱里の話を信じるしかないと至ったのは自分の中にある記憶が大きい。

 だから俺が死んだというのは信じられなかった。

 だってそんな記憶はない。


 トラックにぶつかられたと言われれば、なんとなく分かるものはある。

 でもそれが自分の死に直結しない。なぜなら俺はここにいる。存在している。

 ついさっきまで理央さんと話していたし。土産店では普通に買い物が成立しているし、高宮や母さんとも話したんだ。


 犯人が朱里とか、それはもう、もっともっと先の話……って、いや、ちょっとストップ。

 朱里は今何と言った。前回

 前回はって、なに。


「蒼介大丈夫? 一気に言い過ぎた?」


 全くだよ、朱里。情報量がバカだ。

 胡坐の上に手を組み静かに息を吸って吐いて。そのまま項垂れた。


 空き部屋という言葉の通り、ここには理央さんが用意してくれた布団以外ない。背を預けられるのは壁か扉だけだが、俺らは部屋の真ん中に腰を落ち着けてしまった。

 うっかり体を反らせば倒れてしまう。ああ、何かにもたれたい。


「もたれたいんなら布団敷く? 横なる?」

「え、俺口に出てた?」

「うん」

「あー、ごめん。大丈夫、もたれない」


 片膝を立ててそこで頬杖をつく。

 ここで話を止めてもどうにもならない。こめかみを指で撫でるようにかいてふっと短く息を吐く。

 頬杖をやめると改めて朱里へ顔を向けた。


「俺が死んだってんなら、何でここにいんの。まさか幽霊てか?」

「オォ、これが伏線回収ってやつ?」

「どこに伏線あったよ。俺がお前を幽霊扱いしたとこなら弱い、没」

「厳しいなぁ、蒼介」

「俺が見えてる理央さんはなんなん」

「ハッ、理央ちゃん霊媒師なんかな」

「ここに来るまでに俺と喋った人はみんなもれなく霊媒師? そんな奇跡はねぇし、幽霊の俺にしか認識されてないキミは一体なんなのかって話だ」

「……神、的な?」

「アホか」

「そのうちすごい力に目覚めるかもしれん。秘めたる力がみなぎってくるかもしれんよ」


 そうかい。それは期待しておくよ。

 この不可思議な状況をどうにかしてくれる能力とかな、是非開花してくれ。


「で、じゃあ何で死んだ俺はここにいるの?」

「戻ってきたから」

「死は絶対だろ、どうやって戻るんだよ」

「じゃあ試す? 今」

「俺に死ねと」


 コクン……。じゃねぇのよ。

 さすが自称犯人、ためらいがねぇぜ!


 にしても。やばいな。俺にある許容範囲という枠組みが崩壊する。

 もう全部がわけわからん。受け入れるとかそういう次元にない。

 俺が死んで?

 そしたら今日に戻って?


 アイツらならこの状況をどう許容するんだろう。ふと思い出したのはクラスメイトらだった。特にアイツ、ファンタジー大好き野郎。

 羨ましがるのかね。異世界行きたいわぁ言うてましたけど。


 ふ。そんなわけない。あれは創作物だから夢を見れるのだ。俺ならこう、などと語れるのだ。

 当事者になったらそんな妄想などする暇も余裕もあるものか。


 ……そうだ。俺は当事者なんだ(許容したとかそういう話は置いて)。

 状況をもっと知らなければ。

 わけがわからんのは知ったからなのだ。

 知らないままでは頭の中の整理もできないし冷静にもなれない。


 よし、続きだ。そう気持ちを立て直し、やけに静かな朱里へ目を向ける。


「ごめん、嘘。試してほしくない」


 静かなのは反省中だったからか。……やれやれ。


 コイツはすぐ調子にのるし、考えるより行動しちゃうタイプだし、ほんとまじですぐ、すーーーーぐ調子にのるんだけど。

 でも、変に真面目で、変なところで重く受け止める奴なんだ。傷つけられるよりも傷つけることの方がダメージを受ける。

 昔からずっと。


 ……バカだな、朱里。

 お前の軽口に俺が傷つくわけないだろ。


 髪も背も伸びて、顔つきも大人びたくせに。

 中身はあの頃と変わっていない。

 ふっと笑みを浮かべれば、下がった眉がぴくぴく震えて。なんだよ、ごめんなさいの顔もあの頃のまんまじゃねぇか。


「謝んな。大丈夫、つか死にたくないし」

「ほんとごめん。二度と言わん、こんなん」

「売り言葉に買い言葉的なもんだろ、分かってるって」

「うり……?」

「ん。話を戻そうか」


 さて。膝に置いた手を握って開いてと繰り返し、何度目かに開いた手で膝を包んでから、切り出す。


「さっきさ前回はって言ったけど、前々回もあったってこと?」

「あー、うん」

「アーウン」

「まず一回目なんやけど」

「ちょっと待って。なに、まずって。まるで二回目あるみたいに言うやん」

「あ、ごめん違う」

「ドキドキさせないで」

「蒼介ったら三回も殺されてねぇ」


 ぽかんとする。でかくなった目と口を戻すのに少し時間が要った。

 防衛本能か現実逃避か。……ふ。俺ったら三回も殺されちゃったの、ダセェな俺~。そんな風に心の中で茶化す。まともに受け取ってしまったらどうにかなりそうなんだもの。


 いや、今は知るということに注力するんだ、俺。頑張って!


「えっとー、それは……朱里に?」

「多分、うん」

「そうか。では通報します」

「えっ! 待たれよ!」

「罪は償え。大丈夫だ、出てくんの待っててやるから」

「冤罪です! あたしであってあたしでないものやけん!」

「は?」
















――――――――


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