お城に宝を取りに行く話

dede

第1話

「見て?お城のお堀の回りをあんなにたくさんのドラゴンフライが。……秋の気配を感じるね?」

「え、そこ、トンボじゃダメだったっスか?」

「ダメだったの。のっぴきならない理由で」

「……そうっスか」

「そうなのよ」

だいぶ日の傾いた時分に俺は先輩と二人、廃城のお堀の前でダベッている。

二人とも真っ黒な、体にピッタリとした動きやすそうな服装だった。

俺は手ぶらだったが先輩は背中におっきなリュックサックを背負っている。

「ねえ、先輩?もっと集合時間遅くてよくなかったっスか?」

「……ごめん、待てなかった」

「お子ちゃまですか。実際、いつ頃から開始します?」

「んー4時間後ぐらいかなー?」

「おれ、マンガ喫茶行ってきますね?」

「あ、待って。私も行く」


~4時間後~


上弦の月が浮かぶ中、ススキの合間から虫の音が聞こえてくる。これが、もののあはれ、な情景か。

「さーて、若干のフライングもありましたが!楽しいトレジャーハンティング、始めるよー!」

しみじみと感傷に耽っていた俺の横で先輩が巻物片手に賑やかにそう宣言した。

「わーい、パチパチー」

と俺は平坦な口調でそれに応対する。

「後輩君、ノリ悪いー」

先輩は不満そうにしていたが知ったこっちゃない。

「先輩が借金をチャラにしてくれるっていうから同行してるだけですもん。で、お宝の地図でしたっけ?」

「はい、こちら!」

意気揚々と先輩は巻物を拡げる。

毛筆で城の見取り図らしきものとペケマークが書き込まれていた。

「じゃ、早速お城に入りますか」

俺は城門の方に向かう。

「あ、そっち無理。セコム来る」

「え?じゃあ、どうやって入るんっスか?」

「そこ」

先輩は城壁を指差した。いや、確かに結構な凹凸はあるし、急とはいえ台形上になってるようなので登りやすそうだけども。

「真夜中に道具無しボルダリングとか何考えてるんですか!?」

「いやいや、できるって。やらなきゃ借金そのままだから」

「……わかりましたよ。じゃ、どうぞ」

「え?」

先輩が不思議そうに見つめ返してきた。

「え?そこは提案者の先輩が先に登ってくださいよ?」

「え?でも、後輩君登る時、上を見て登るよね?」

「そりゃまあ」

下を見ながらは恐すぎる。

「ほら、そうすると私が視界に入る訳じゃない?こう、結構体のラインが分かるこの恰好を下から舐めるように見られるのはちょっと……。

もう、そういう気配りできないと女の子にモテ「はいはい分かりました分りました。先に登るのでとっとと終わらせましょう先輩?」」

俺はモジモジしている先輩の脇を通り抜け、城壁を登り始めた。

危うい手元に気を付けながら2mぐらい登ったところで

「じゃ、私も登るか」

と、先輩も登り始めたようだ(下が見れないから、たぶんだが)。

「あ」

ガシッ

「ファっ!?」

突然足首を掴まれて、下に引きずり降ろされる。手が、手がすりおろされるぅぅぅぅ!

「やー、ごめん。足踏み外しちゃって」

「マ・ジ・で!落ちるなら一人で落ちてください巻き込まないでください勘弁してください。いいですね?数メートル離れてから登り始めてくださいよ?」

「ユーキャンフライ」

「飛べませんよ!?」

「うー、わかったよー」

その後、何事もなく登り切った。登り切って下を見てみたら、触れられる位置に先輩がいて、すぐに城壁の淵に手を掛けていた。

「……先輩?」

「違うの!後輩君が登るのが遅かったのがいけなかったと私思うの!」

でも先輩はけして目線を合わせてはくれなかった。諸共はイヤっスよ!


「で、先輩。どっちです?」

「ん、そこ右」

と、言って先輩はコチラを見ていた。

「どうしたの?」

「いや、何で先輩動かないんです?」

「いや、後輩君先に行ってよ」

「は?いや、そこは地図持ってるんだから先輩が先行ってくださいよ?」

「借金」

「先歩かせて貰いますねー!?もぉーねー!?わ、蜘蛛の巣が顔にっ!?」

というわけで、先輩の露払い(というか蜘蛛の巣払い)をするために、先輩の指示の元、先頭を歩く。

先輩は、俺の服を摘まみながら後ろをついてくる。

「次、左」

「へーい」

「あ、止まって?」

「え、なんでです?」

「何も見えん」

「あー」

空を見上げると、月が雲に隠れてしまっていた。明かりはそれっきりだったので真っ暗闇だ。

「じゃ、スマホの……」

「それはダメ!見つかる!」

……誰に?って、セコムかぁ。怒られるのはイヤだなぁ。

「雲は小さいからしばらく待ちましょ?……後輩君?そこ、いる?気配を感じないんだけど?」

「いやいや。服、掴んでるっスよね?」

秋の気配は感じても目の前の後輩の気配を感じないのは、単純に先輩の修行不足ですよ?

やがて雲は月の前を通り過ぎ、元の明るさに戻った。

「おお、いた。良かった」

へっぴり腰の先輩が、俺の姿を見て安堵した様子だった。

「ずっといました。で、次、どっちです?」

「えーとね……」

その後、先輩の指示の元、地図の×マークまでやってきた。

「木、ね?」

「ええ、木っスね?柿っスね?」

×マークには立派な柿の木が生えていた。たわわに実ってた。

「どうします?掘ってみます?」

「そんな道具持ってきてないわよ?……しょうがない、諦めるかぁ」

え、諦めの判断、滅茶苦茶早いっ!?

「いいんッスか?」

「だってしょうがないじゃない。撤収よ」

「……手ぶらもなんですし、せめて柿の実でも持って帰ります?」

「え、でも、それって柿泥棒……」

「今更それ気にしますか、先輩っ!?……もう、取りますよ?」

俺はひょいひょいと木を登ると、手近な柿の実を2個もぎ、一つを先輩に山なりに投げて寄こした。

「あ……。その、ありがとう」

先輩はその柿を野球のフライをキャッチするように受け取ると、服でゴシゴシ擦る。

「どう致しまして」

俺はそのまま木の上で柿を齧った。

「!?先輩、食べちゃダメだ!」

「え?」

「……渋柿でした」

口の中の柿を吐き出すけれど、何度ペッペッしても口の中のイガイガが取れない。最悪だ。

「……散々でした」

「よし、今回は撤退します!次回こそは!」

「えぇ?次があるんっスか?」

「ええ、海に沈んでいる財宝の地図が」

「えぇ?すっかり涼しくなったこの時期に、海は勘弁してくださいよ……っていうか、俺、もう行かないっスからね?」

「もう、しょうがないなぁ。海は来年の夏ね?その頃には後輩君の借金もいい具合に溜まってるでしょ?」

「……」

否定できない。

「仕方ないっスね?その時は、今度こそ美味しいもの食べましょう。伊勢海老、伊勢海老捕ってそれで海老フライ作りましょうよ?」

「え、でも伊勢海老の密漁って6ヶ月以下の懲役若しくは10万円以下の罰金って……」

「盗掘セーフでなんで他にはそんな厳しいんですか先輩っ!?……しかし、先輩?どこでそんな宝の地図見つけてくるんっスか?」

「え、ココのはメルカリ、海のはネットに落ちてたよ?」

「絶対両方ともニセモノですよ!?」

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