第4話 始まりの一歩
試験のため早速城門へと到着した俺は、そこでギルドスタッフの人から、試験の内容について改めて説明を受けた。
「それでは試験について改めて説明致します。ノアさんにはこれから、3日以内にコバルトフラワーを採取して来て貰います。」
「確か、小川の周辺に自生していることが多い…でしたね。」
カーリーさんのアドバイスについて聞いてみると、スタッフの人はニコッと笑って答えた。
「その通りです。これから拠点まで向かってもらいます。一番近い小川でも、街道を辿ってだいたい3時間はかかりますが、1日でも十分ですので安心してください。」
「なるほど、分かりました。」
納得したところで、ふと気になることを思いだした。
「そう言えば、稀に危険な魔物に遭遇すると聞きましたが…」
バーレットに言われたことを訪ねてみると、スタッフの人は「そうですね…」と考えた後、
「確かに、危険な魔物に出くわす可能性もなくはないです。でも、ほんとに稀ではあります。警戒するに越したことはありませんが。」
「出くわしても、慌てずに逃げるべし…ですか。」
「そうですね!無謀にも挑んでポックリ逝ってしまっては、元も子もありませんからね。」
「あ、説明に戻りますね。コバルトフラワーを採取し、拠点に帰ってくるまでの間は、自由に行動してもらって構いません。」
「自由に行動…といいますと?」
「例えば、他の植物や鉱石などの素材を集めるもよし、付近の魔物を討伐して経験を積み、素材も得るのもよし。」
「とにかく、他の冒険者の方や行商人の方を襲ったり、無意味な乱獲さえしないのであれば、何をしても構わない…ということになります。」
「…他人の襲撃はともかくとして、乱獲に関しては、結構隠れて行う人がいそうですね…」
「ま、まぁ所持している素材の量で判断されますので…」
「それでも不正が横行していそうな気が…」
スタッフの人は「うっ…」と声を漏らす。言わない方が良かったか…
「き、気を取り直して…説明は以上になります!冒険者になるための試験、頑張ってくださいね!」
「は、はい。」
なんか必死に話を逸らされたが…まぁいいか。いや良くはないが…
「拠点までは馬車が出ますので、そちらにお乗りください。」
言われた通り、馬車に乗り込み城門を後にした。
馬車に揺られて街道を進み、目的地の拠点に到着した俺は、馬車の持ち主に感謝した後、拠点の男性スタッフの人に声をかけた。
「すみません、冒険者の試験を受けにきたのですが…」
「冒険者試験ですね。確認致しますので、お名前をお聞かせくださいませんか?」
「ノアです。」
「ノアさんですね。確認致しますので、少々お待ちください。」
待つこと数分…
「お待たせ致しました。確認が取れましたので、出発される前に、こちらをお渡し致しますね。」
そう言われ、スタッフの人から何かしらの道具を手渡された。
中ぐらいのサイズの茶色のポーチに、何かの手帳らしきもの、後はツルハシや鉈、ナイフといった道具だ。
「鉱石を採掘するためのツルハシと、伐採などに使うための鉈、剥ぎ取りを行うためのナイフに、素材や道具を収納するためのポーチ…」
「そして、そちらの手帳は冒険手帳といって、素材や魔物に関する図鑑とメモ用のページ、そして世界地図が掲載されています。」
と、スタッフの人は親切に説明をしてくれた。
「これらの道具は試験を受けた方に携帯され、見事試験に合格された方には、そのまま差し上げることになっておりますので、是非合格目指して頑張ってください。」
「ありがとうございます。」
「それでは、西側の門から出発なさってください。どうか、おきをつけて。」
「分かりました、行ってきます。」
そう告げ、言われた通り西側の門を出て、近くの小川を目指し歩き出した。
門を出て、街道をしばらく歩いていると、緑色の魔物らしき生物の群れを発見した。四足で歩いているが、時折後ろ足で立ち上がっては、辺りを見渡している。前足には一本だけ鉤爪があり、頭部は大きくて細長く、クチバシらしきものも見られる。
「あれは…?」
気になったため、早速手帳の魔物図鑑で確認する。
「名前は〝ミーティス〟で、別名は…
「世界各地に生息している草食性の魔物で、こちらから手を出さない限り襲ってくることはないんだな。」
今こうして読み上げている間も、ミーティスの群れは呑気にくつろいでいる。
(一応素材が手に入るらしいが…)
無害な魔物を殺傷するのは、なんというか…心が痛む。
(あれ!?もしかして俺…冒険者に向いていないんじゃ…!?)
と、とんでもないことに気づいたが、
(…直に慣れるかも…しれない…な。)
ちょっと無理がありそうな理論で自身を説得し、再び街道を歩き出した。
…できれば早く慣れたいなぁ。
と、街道を歩いていると、突然草むらから何かが飛び出してきた。先ほどのミーティスよりも小さく、茶色の体毛と細長い身体が特徴的だ。
再び図鑑を見る。
「〝バーバゼル〟…別名は
手帳を閉じ、再びバーバゼルの方へ目を向ける。飛び出してきたバーバゼルは一匹ではなく三匹のようだ。
(弱い魔物とはいえ…3対1は部が悪いな。どうしたものか…)
そうして悩んでいると、右側にいた一匹がこちらに飛び込んできた。
咄嗟に回避するが、すぐに二匹目、三匹目が飛びかかってくる。
(なんとかいなせてはいるが、余裕はあまりないな…)
その間にも、三匹は連携して襲いかかってくる。この状況を打破するには…なんて考えていたら、
「ぐっ!?」
バーバゼルの噛み付きを、左腕に諸に喰らってしまった。
「くっ!この…!」
腕を振り回し、なんとかバーバゼルを引き剥がした。赤黒い血が左腕から流れる。
(対した傷にはならなかったが…依然としてまずい状況に変わりはない…)
バーバゼルたちは『一気に仕留めてやる!』と言っているかのように、ジリジリと距離を詰めてくる。
(このままやられる訳にはいかない…!悔しいが…隙を見て逃げるしか…!)
そう考えたその時だった。
突然、背後から一本の矢が飛んできた。その矢は俺の真横を抜けて、さっき噛み付いてきたバーバゼルの胴体に命中した。
俺が背後に目をやると、そこには一人の男性が立っていた。
鎧ではあるが軽装であり、手にはクロスボウを持っていた。冒険者であることは、一目瞭然だった。
冒険者の男性が俺に言い放つ。
「今だ!そいつにお返ししてやれ!」
「っ!はい!」
そう言われ、俺は剣を抜き、矢を受け痛みに悶えているバーバゼルを、そのまま斬りつけた。
斬りつけられたバーバゼルはそのまま地に倒れ伏す。
その様子を見て、動揺していた残りのバーバゼルは、一目散に逃げていった。
「…」
ふと我に帰った俺は、倒したバーバゼルの元へ歩み寄る。
男性の言葉を受け、勢いのまま斬り殺したが、いざ冷静になれば、かなり後味が悪い。
俺の胸中を察したのか、助けてくれた男性が声をかけてきた。
「罪悪感を覚えるのは良く分かる。けど、生きるか死ぬかは自然の理だ、相手を殺らなきゃこっちが殺られる。」
「…分かってはいます。」
「冒険者を志す時に、こういうことは日常茶飯事だってことを、覚悟してきたんだろ?」
「…はい。」
暗い声で返すと、男性は俺の頭に手を置いて、
「すぐに慣れろとは言わねぇ。端からこういう胸糞悪いもんに慣れてる奴なんかいやしねぇさ。」
声はとても優しかった。その言葉に、俺は少しだけ、気が軽くなったような気がした。
「…そう、ですよね。」
そう返して、男性の方へ振り向く。
そこで、初めて男性に違和感を覚えた。パッと見変なところはなく、人間と言われてもなんらおかしくない。
頭に生える獣耳と、時折後ろに見えるふさふさの尻尾以外は…
「…あの。」
「俺が人間に見えないって?」
「えっ…」
「顔に全部出てるからさ。」
「…すみません。」
「謝る必要はねぇよ。」
そう言って笑う男性は、ふと何かを思い出したように話を続ける。
「そういや名前を言ってなかったな。俺はテッド、見ての通り、冒険者をしている。」
「俺はノアって言います。」
「ノアか…良い名じゃねぇか。」
互いに名前を確認し合うと、テッドと名乗った男性は、
「お前は試験の最中だろ?ここで会ったのも何かの縁だ、俺が同行してやるよ。」
俺としては嬉しい提案をしてきた。
「え、いいんですか!?」
「もちろんだ。それに、お前の怪我も治さねぇとな。」
「…あ。」
すっかり忘れていた。
自力で治す方法もなかったため、お言葉に甘えて、テッドさんに応急手当てをしてもらうことになった。
手当てを受けた後、俺はテッドさんと共に小川へ向けて出発した。
その間、テッドさんはさっきのことについて教えてくれた。
「さっき俺が人間に見えないって話したよな?それについて話そうか。」
「この世界には、人類って呼ばれる、7つの種族が存在するんだ。」
「7つの種族?」
テッドさんによると、7つの種族というのは…
優れた文明を造り出す
高い身体能力を持つ
水中での活動に長けた
屈強な肉体を誇るオーガ
高い知識を有するエルフ
物作りを生業とするドワーフ
戦闘を得意とするドラゴニュート
に分けられるらしい。
「獣人は獣耳に尻尾、魚人はヒレ、オーガは屈強な赤い身体と角、エルフは尖った耳、ドワーフは黄緑の小柄な身体、ドラゴニュートは水色の鱗が特徴的だな。」
「じゃあテッドさんは…」
「そう、俺は見ての通り獣人だ。獣耳も尻尾も、作り物なんかじゃないぜ。」
と、自慢気に話すテッドさん。俺は苦笑いをしながらも、人間以外の種族について、もっと知りたいと思った。
「街に戻ったら、図書室に行ってみな。そこでこの世界の歴史とか、いろいろ知ることができるぜ。」
「そうなんですか?教えてくれてありがとうございます。」
「いいってことよ。」
そういったやり取りをしているうちに、目的の小川まで到着した。
川岸に近づくと、青く輝く花が群生しているを発見した。
「テッドさん、ありました。」
「おぅ、良かったな。失くさねぇように、ポーチにしまっとけよ。」
テッドさんの言葉に頷くと、ポーチにコバルトフラワーを入れた。
「さて、このまま拠点まで戻るか?それとも、他に素材を採取してくか?」
「今は他に用はないので、このまま帰ろうかなと。」
「そうかそうか。俺もレビンの街に戻るつもりだったし、このまま同行させてもらうわ。」
「ありがとうございます。」
そうして、俺とテッドさんは拠点に向けて街道を進み出した。
途中、またバーバゼルの群れに襲撃を受けたが、テッドさんが一人で撃退してくれた。その際に、死体からの剥ぎ取りを教えてくれたが、これも慣れるまで時間がかかりそうだった。
人生を謳歌する ByaKuYa @WeiB
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