第3話 冒険者としての覚悟
レビンの街の門前まで来てみたが、その門は驚くほど大きく、改めてその規模に圧倒させられる。
「すごいな…こんな大きな街だったなんて。」
「まぁ、王都に比べりゃ小さいがな!」
そう言って、バーレットはまた豪快に笑った。
「俺から離れるなよノア、軽く街を紹介してやるぜ。」
「あぁ、頼むよバーレット。」
こうして、俺はバーレット主導のもと、レビンの街を見て回ることになった。
始めに、門をくぐり抜けた先の、人で賑わう場所までやって来た。
「まず、ここがメインストリートだ。定期的に朝市をやってるから、掘り出し物が見つかるかもな。」
「人で溢れ帰っているな。」
「朝市は終わってっけどな。朝市よりも規模は小させぇが、それでも人の往来は多いんだよ。」
続いてメインストリートを右手に曲がってすぐの大きな建物の前にやって来た。中から食欲をそそる良い匂いがこちらに向かってくる。
「ここは公共の食堂だ。腹が減ったらここに来て腹一杯食べるといいぜ。」
「美味しそうな匂いだ…」
「ここの飯はマジでうめぇからなぁ。依頼を済ませてから食う飯は特に最高だ!」
食堂を後にし、メインストリートに戻ると、今度は左手に曲がり、少し歩いたところにある、これまた大きな建物の前まで来た。なにやら様々な施設が合併しているようだが…
「ここは冒険者ギルド。俺たち冒険者たちが、依頼を受けたり、達成した依頼を報告する場所だ。」
「それにしてはかなり大きいように見えるが…」
「ここには武具を作ってくれる鍛冶屋とか、素材の鑑定や買い取りをしてくれる店とかいろいろあるからな。」
最後に、メインストリートを真っ直ぐ進んだ先にある、非常に大きな旅館のような建物の前にやって来た。
「ここは冒険者が泊まる宿舎だ。冒険者は家を買うまでの間は、ここで寝泊まりしてんのさ。」
「バーレットもここに泊まっているのか?」
「いや、俺は家を持ってっからな。それまでは世話になったけどよ。」
「さて、重要な施設は以上だな。」
「こっからどんな生活をするかはお前次第だ。もし分かんねぇことがあったら、気軽に相談してくれ。」
「ありがとう、バーレット。じゃあ、早速なんだが…」
そう言って、俺は腰に差していた剣を手に取り、
「冒険者になろうと思う。」
そう宣言した。
「冒険者ねぇ…確かにお前は剣持ってるし、問題ねぇとは思うが、後悔はしないな?」
「?…あぁ、もちろん。」
バーレットの言葉の意味がよくわからないが、覚悟があることは伝えようと声を出す。
「そうか…そこまで言うんなら、俺は止めねぇよ。じゃ、ギルドに行くとすっか。」
そう言って、俺たちはギルドへと向かう。
ふと、バーレットの言葉が気になった俺は、そのことについて聞いてみることにした。
「なぁ、さっき後悔はしないな?と言っていたが…」
「ん?あぁ、あれな。」
バーレットは、嫌な顔ひとつせずに答えてくれた。
「冒険者っつうのは結論から言うと、お先真っ暗な職なのさ。」
「お先真っ暗…?」
「あぁ、そうだ。はっきり言って、半端な覚悟でなっていいもんじょねぇ。」
「一般市民が近づけないような、魔物が屯する場所で採取したり、魔物を討伐したりするのが冒険者の基本な。」
「それ故に、常に死と隣り合わせな訳だ。そうとも知らずに依頼を受けて、亡くなった奴も少なくねぇ。」
「なるほど…だからそれ相応の覚悟と実力が必要、ということか。」
「そういうことだ。だから、冒険者になるには試験に合格しなきゃならねぇ。」
試験か、どんなものなのだろうか。
「まぁ、つってもそんなに難しいもんじゃねぇ。近くの平原で指定されたもんを取ってくるだけだ。」
「えらく簡単なんだな。」
「そうとも言い切れねぇよ。場合によっちゃ、危険な魔物に出くわす可能性もあるしよ。」
「つってもごく稀にだけどな!」と、バーレットは豪快に笑う。俺としては、あまり笑えない話なのだが…
そうこうしているうちに、冒険者ギルドに辿り着いた。
「んじゃ、さっそく案内するぜ。」
ギルドの中は驚くほど広く、依頼書の貼られた巨大なボードに、寛ぐためのスペース、鍛冶屋や買い取り屋、図書室などの施設へと続く廊下に受付カウンターと、かなりの規模だった。
「外見からは想像できないほどに広いな…」
「がっはっはっは!俺も最初見たときはそんな感想だったなぁ!」
「なーに、王都の本部に比べりゃ、うちなんか小さいもんだよ。」
談笑していると、誰かが横から割り込んできた。
見ると、そこには恰幅の良い、強面な女性が立っていた。服装からして、どこかのお偉いさんだろうか。
「おっ!久しぶりじゃねぇかカーリー!」
「ここではギルドマスターと呼びな。」
バーレットが気軽に呼び掛けると、カーリーと呼ばれた女性は、やれやれといったように呆れ気味に返す。
しかし、ギルドマスターということはつまり…
「そんで、あんたの隣にいるそいつは誰だい?」
「ん?あぁ、こいつか?こいつはノアつってな、冒険者になりてぇっつーことだから連れてきた。」
「おや、そうだったのかい。どうりで見たことない顔だと思ったよ。」
「初めまして、ノアと申します。」
「おや、こりゃご丁寧にどうも。」
軽めに挨拶をすると、彼女は少し驚いたように返し、すぐに笑顔を見せた。
「あたしは冒険者ギルド・レビン支部のギルドマスターを勤めてるカーリーだ。よろしくお願いするよ、ノア。」
カーリーさんは、ぶっきらぼうながらも挨拶を返してくれた。優しそうな人だ。
「さて、冒険者志願なら、試験を受けてもらうけど大丈夫かい?たぶん、そいつから聞かされてるとは思うけどね。」
「はい、だいたいは聞きました。詳しい内容はまだですが…」
「そうかい、なら説明しようか。こっちに来な。」
そう言われ、カーリーさんはのしのしと、受付カウンターの方へと歩いていった。バーレットから「頑張れよ!」と背中を叩かれた後、受付カウンターの前まで来ると、カーリーさんは説明を始めた。
「試験の内容はこうだ。近くの平原に自生する植物【コバルトフラワー】を3日以内に取ってくる、以上さ。」
「コバルトフラワー…どんな見た目ですか?」
「これが実物になります。」
そう言って、受付の人が一つの花を見せてくれた。濃い青色と星形の花びらが特徴的な、とても美しい花だった。
「これを取ってくればいいんですね?」
「あぁ、そうさ。目印としては、小川周辺に生えてることが多いから、そこを重点的に探すと見つかりやすいよ。」
「分かりました。」
「それと、その平原にも一応魔物はいるけれど、どいつもこいつも弱い魔物ばかりだから、試験ついでに鍛練するのもありだよ。」
「なるほど…ありがとうごさいます。では、行ってきます。」
「あぁ、しっかりやって来な!」
後ろでカーリーさんと受付の人が手を振る中、俺は深呼吸をした後、試験会場へと向かうのだった。
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