第2話 大切な人達との別れ
バルザックとメリッサに世話になり、ティーグは3日でこの世界の事を学んだ。勇者召喚等どうでもいいが、兎に角この世界で生き抜く為に必要だったし、ティーグは元の世界との違いを考えながらだったので、脅威のスピードで学べたこともある。偶に城から兵士が彷徨いて来ていたが、2人だけでなく、スラム街の人達は皆優しく、事情をメリッサ達から聞いてティーグのことを話したりしなかった。しかし、それでもどうにもならないこともあり、4日目の朝、まだ夜明け前に兵士がスラム街の入口から叫んだ。
「城からの逃亡者の視察だ!全員家の中にいろ!家から出たものは反抗の意思ありとして殺していく!」
その声で全員起きたが、ティーグだけは気が気でない。バルザックとメリッサ、スラム街の皆が危険に晒される、それは許容出来ないと思っているからだ。バルザックとメリッサから幾ばくかのお金を貰い、出ていく準備は出来ているが、それでも見捨てて出ていくなど…そう考えていた時、扉をノックされた。バルザックとメリッサだ。
「ティーグ、いいか、窓から屋根伝いに城下町に出て、乗り合い馬車に乗って街を出るんだ。その後は…済まない、わからん。」
「俺が素直に出ていけば…」
「そうなればスラム街の全員が死ぬことになる。俺達だけでなくな。」
「バルザックとメリッサは…?」
「あたし達は素直にあんたを匿っていた事を話すよ。そうしなきゃ皆殺されちまうからね。」
「そんな…!」
「ティーグ…この数日、俺達は幸せだった。」
「子供のいないあたし達にとって、あんたは短い間でも子供みたいなもんだったよ。だから…この世界に喚ばれた事を恨まず、精一杯生きてくれ。」
「さあ、ティーグ、行くんだ!」
そう言われてティーグは涙を流しながら、言われた通り窓から外に出て街へ向かった。
「ティーグ…」
「頑張るんだよ…」
バルザックとメリッサはティーグの幸せを祈った。
街の中心に着いたティーグは乗り合い馬車を見つけて乗せてもらった。行き先は隣の小さな村だと言われたが、何処に行っても同じだと思っていた。ガラガラと音を立てて進んでいく馬車、どんどん離れていく城を見ながら、ティーグはバルザックとメリッサのその後を気にしている。どれくらい離れたかわからないが、急に馬車が止まる。
「全員降りろ!」
そう聞こえてティーグが降りると、そこには兵士が5人いた。
「貴様らの中に城からの逃亡者がいるか検める!」
そう言われて全員フードや帽子を外す。ティーグも例外ではない。メリッサに黒髪を脱色し、赤に染めてもらっていたので、目立つことはなかった。
「逃亡者は魔法が使えない。全員ライトの魔法を見せろ!」
そう言われた時も、簡単な魔道具を使えるようにメリッサに教えて貰っていたので、誤魔化すことが出来た。
「ふむ…この馬車ではなかったか?」
そう話して兵士が去ろうとしたとき、馬車の主が言った。
「兵士様、実はそこの赤髪の男は今までに見たことがありません。」
それを聞いて兵士がティーグに向き直る。
「今回初めてコーヤル村に行くので。」
「怪しいやつは捕まえろと言われている!その男を捕縛しろ!」
そうティーグは弁明するが、兵士達には関係ないのか、ティーグに対して剣を抜き、捕縛しようと近付く。誤魔化しきれないと思い、ティーグは道から外れた森の中へと入っていった。
「逃がすな!」
兵士達もティーグを追って森へと向かう。
森に入ってすぐ、ティーグは後悔した。森はまともに走れないほど薄暗く、危険な場所だった。しかし、兵士達はそれでもライトの魔法で照らしながら接近してくる。メリッサから貰った魔道具は長持ちするが、そんなに何度も使えない。仕方なくティーグは迎撃体制を取る。運が良いことに敵は密集しておらず、バラバラに行動している様なので、ティーグは木の上に登り、悠々とライトを付けている敵を上から強襲し、1人1人首を圧し折って殺害して言った。ティーグが格闘技の天才だからこそ出来る芸当であり、物音1つさせずに殺していけるのもそのお陰である。しかし…殺すために技を使用するのは初めてだったので、罪悪感に苛まれていく。そして最後の5人目と相対した時、少しの油断で脇腹を斬られてしまった。それでも渾身の正拳突きを2発、相手の胸部と眉間に叩き込み、完全に沈黙させ、ティーグは森の奥へと進んで行った。もう遠慮する必要はないのでライトを頼りに進んで行くが、斬られた脇腹を治す方法もなく、途方にくれ…ティーグは力尽きた。
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