第3話 神との契約

薄れゆく意識の中、ティーグは思っていた。

(何故…この世界に召喚されたのか…)

(何故…俺はこんな目に遭わなければならないのか…)

(何故…バルザックとメリッサが…)

(…)

静かに目を閉じて、もう死ぬんだな…ティーグがそう思った時、不意に声が聞こえてきた。

"おい、人間!"

不思議に感じた。耳に聞こえているのではない、意識に語りかけられている感じがしてティーグは驚いたが、薄れていく意識の幻聴だと思った。

"こりゃ不味いな。何とかしてやらんと。"

そう声がした途端、ティーグの体が光りだす。優しい感覚に包まれて、ティーグは斬られた脇腹の痛みが消えていくのを感じる。

(暖かい…)

"これで良し。おい、起きろ!"

そう言われてティーグは目を開けて起き上がる。斬られた脇腹は傷が塞がれており、痛みは無くなっていた。

(一体…?)

"よう、起きたか?"

ティーグはその声に問う。

(あなたが治してくれたのか?)

"そうだ。おっと、先に言っておく。今はお前の味方でも敵でもない。だが、久しぶりに強い意志を感じたんでな。少し話してみようと思ったんだ。"

(まずは感謝させてくれ。有難う。)

"ほぅ、敵かも知れない奴に礼を言うか?"

(助けてもらったことに変わりはないから。)

"…お前さん、面白いな。名前を教えてくれるか?俺はコーリー。この世界の神の1人さ。"

(…ティーグだ。…神と言ったな?ならば知っているのか?俺が何故この世界に喚ばれたのか…?)

"お前さん…いや、お前さんら4人が喚ばれた理由は知らねぇ。この世界の神は俺だけじゃねぇ。しかし…あいつ等…お前さんに何も与えなかったのか…"

(?)

"本来この世界に召喚された人間には魔法だったり、身体能力の強化だったり、何かしら与えられる。生まれてくる命でさえ、魔力をもって生まれてくるのに、お前さんにはそれが感じられねぇ。"

(そうだ…だから俺は…)

"…悔しいか?"

(いや…ただ、俺に優しくしてくれた人達は…俺のせいで…)

"…"

(俺は…どうしたらいい?)

"…なぁ、お前は何がしたい?"

コーリーの質問に、ティーグは答えられなかった。復讐…報復…敵討ち…いや、違う。

(俺は…元の世界に帰りたい…)

"なら、俺の元に来い。"

(え?)

"お前に力を与えてやる。他の神が与えなかった力を、俺のとっておきをお前に与えてやる。復讐でもなんでも思いのまま、お前のやりたいように出来る力を。"

(それで…あんたにメリットはあるのか…?)

"あるさ。俺は今まで誰にも俺の力を与えて来なかった。見てみたいのさ、俺の技術、力を受け継いだ人間がどうなるのかを見たいのさ。"

(解った、あんたの力、技術を教えてくれ!)

"決まりだ、さぁ目を瞑れ!"

そう言われて、ティーグが目を瞑ると不思議な感覚に包まれ、再び目を開けた時、広い草原にティーグはいた。

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練気は魔法をも打ち砕く 藤本敏之 @asagi1984

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