第2話:あれ?弱くね……?

 ◇


 俺は、さっそく迷宮へ向かった。


 迷宮の入口近くには、軽く100人以上の人でごった返していた。


 彼らは各々がスマホを見ながら、何かぶつぶつと呟いている。


「さらきゅ~んっ!」


「頑張ってほしいでござる!」


「あ~、娘の帰りを待つ親父みたいな気分だぁ!」


 ふむ。


 どうやら、ここに集まっているのは糸井彩羅のファンらしい。


 こんなところで出待ちをされても迷惑なんじゃなかろうかと思うのだが、SNSで場所まで告知していたので、計算尽くかもしれない。


 STAFFと書かれたジャケットを着ている人たちが数人見られる。おそらく糸井彩羅の関係者かなにかだろう。安全面に関しての問題はなさそうだ。


 俺は、人だかりをかき分けて迷宮の入口へ。


「すみません、今は立ち入り禁止です!」


「ん?」


 迷宮に入ろうとしたところを、女性スタッフに止められた。


「迷宮っていうのは誰かが挑戦しているときは立ち入り禁止だったか?」


 異世界と日本の常識が違っている可能性も考えられるため、念のための確認だ。


「そうではありませんが、彩羅が挑戦中ですので! 私は彩羅のマネージャーです」


「糸井彩羅が挑戦中だとどうして入っちゃいけないんだ?」


「それは……ご理解ください!」


 特に深い理由はなさそうだ。


「というか、あなた迷惑系で有名なセイヤモンですよね? ぷぷっ、コラボを申し込もうとか思ってるんでしょうけど、天地がひっくり返っても叶わないと思いますよ?」


 半笑いで煽ってくるマネージャー。


 こいつ、初対面の相手に失礼なやつだな。


「それは、聞いてみるまでわからないと思うがな」


「あっ、ちょっ、お待ちください!」


 ゆっくり話している時間もないので、俺は強引に迷宮に入っていった。


 ◇


 迷宮の中は配信で先に見ていた通り、洞窟のような感じの普通の迷宮だ。


 あちこちに潜んでいる雑魚を倒しながら奥へ進み、ボスを倒せば迷宮制覇となる。


「ガウルルル!」


 目の前にウルフが飛び出してきた。


 俺はさっと左手を向けて、魔法を放った。


 『火球』。


 ドガアアアアアアアアアアンンンンッッ!!!!


 ウルフは消炭になったのだった。


「まあ、こんなもんか」


 転生直後から感覚的に魔法が使えることはわかっていたが、実際に試して問題なく使えたことで安心した。


 しかし、転生して肉体が変わった影響なのか威力は微妙だった。


 このダンジョンをクリアする程度なら問題ないと思うが……念のためにステータスも確認しておこう。


 ――――――――――――――――――――

 ◇ステータス

 職業:賢者


 攻撃力:107

 防御力:106

 攻撃速度:99

 敏捷性:101

 移動速度:79

 魔法攻撃力:148

 魔法抵抗力:102

 魔法発動速度:122

 ――――――――――――――――――――


 やはり、低いな……。


 前世で培った魔法の効率化でどうにかそこそこの威力は出せているが、しっかり鍛しておかないとな。


 俺は雑魚を蹴散らしながら奥へ奥へと進んでいった。


 そして、ボス部屋でようやく追いついた。


 ドンっと叩きつけられるような音とともに、女の子の悲鳴が聞こえる。


「ど、どうしてこんなことに……痛っ」


 部屋の中を除くとボロボロの女の子と巨大な赤竜が対峙していた。


 やはり、思っていた通りの事態になっていたようだった。



――――――――――――――――――――――――――――

 ※自動カメラで彩羅を映す配信のコメント欄


 @user-jhbg6ikj9rkj9bb

 お、俺の彩羅ちゃんが……っ!


 @user-klb8d88dsu9uasw

 ああああああああああああああっ!


 @user-pq12h6yggd2khbv

 なんでこんな強い魔物がいるんだよ!? 街中の迷宮なんてせいぜいC級だろ!?


 @user-jncd8jdcw11ceek

 こんなのA級……いや、S級だって!


 @user-wfwqrf8vjj1uuca

 俺が助けにいかないと!

 

 @user-hfew9j1dctjuyt0

 ↑お前が行ってもさらきゅんの迷惑になるだけ


 @user-nbvds5jhg8iuys2

 くそ、俺に力があれば救えるのに……


 @user-wfwe1uy8nblop1w

 この際どんな極悪人でもいい! 俺たちの彩羅きゅんを救ってくれ!!

――――――――――――――――――――――――――――


 さて、片づけるか。


「大丈夫か?」


 倒れている彩羅に声をかけると、赤竜がギロっとこちらを向いた。


「え!? 人!? ファンの人!?」


 他に人がいるはずがないと思っていたのだろう。


 彩羅はかなり驚いていたようだった。


「ダメ! 逃げて! 殺されるよ!」


 彩羅はこの状況でも他人の俺を心配してくれているらしい。


 純粋で良い子だ。人気があるのも頷ける。



――――――――――――――――――――――――――――

 ※自動カメラで彩羅を映す配信のコメント欄


 @user-jhbg6ikj9rkj9bb

 誰?


 @user-nbvds5jhg8iuys2

 誰だよこいつ 冷やかしならお前も〇ね!


 @user-pq12h6yggd2khbv

 こんな時にもさらきゅん優しい……


 @user-klb8d88dsu9uasw

 あーーーー! あいつだ!


 @user-jncd8jdcw11ceek

 セイヤモンじゃん!!


 @user-wfwe1uy8nblop1w

 ふぁ!? まじで極悪人出てきたの?

――――――――――――――――――――――――――――



 俺は、焦る彩羅を横目に左手を赤竜に向ける。


 そして――


 『多弾紅炎石《メテオ・シャワー》』


 念には念を入れ、今の俺にできる最高火力の魔法を叩き込んだ。


 燃える巨大な岩石を赤竜の頭上から勢いよく落とす。落とした魔法は着弾と同時に大爆発を起こした。


 ドガアアアアアアアアアアアンンンンッッ!!


 この一撃でこの迷宮のボスである赤竜は絶命したようだった。



――――――――――――――――――――――――――――

 ※自動カメラで彩羅を映す配信のコメント欄


 @user-wfwe1uy8nblop1w

 ふぁーーーーーーーwwwwww


 @user-jhbg6ikj9rkj9bb

 何が起こった?!?!?!?!


 @user-fdsf1kfss9adsa1

 セイヤモンさん正義の味方に転職しちゃった??

――――――――――――――――――――――――――――


「う、うそ……。す、すごい……」


 彩羅にとってはかなりの驚きだったようだ。


 しかし、俺の感想は逆だ。


 え? このボス弱すぎない?

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悪役賢者の配信無双 ~モブになりたい異世界帰りの英雄は超有名美少女アイドル探索者を救ってバズってしまう~ 蒼月浩二 @aotsukikoji

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