悪役賢者の配信無双 ~モブになりたい異世界帰りの英雄は超有名美少女アイドル探索者を救ってバズってしまう~

蒼月浩二

第1話:異世界帰り

 俺の名前は佐藤誠也さとうせいや


 異世界の賢者として天寿を全うし、日本に帰ってきた元英雄である。


 ラスボスである『蒼炎の黒竜』を倒して平穏な世界を取り戻したまでは良かった。


 その後の俺は田舎でゆるりとスローライフを送りたかったのだが、王族や貴族、著名な冒険者や仲間たちが途切れることなく訪れてくれた。


 尊敬されたり大切にされるのは嬉しかったが、さすがにこれだけ注目されると疲れてしまうというのも本音だった。


 もし来世があるなら、今度は目立たずモブとして普通の人生を送りたい――そんなことを思いながら深い眠りから覚めると、俺の故郷である日本の東京にある公園のベンチで転生したのだった。


 日本と異世界の時間の流れは違っているようで、2010年に異世界に転生した俺が60年を過ごして戻ってきた今は2023年。


 元の身体は交通事故でなくなっていたのだが、同姓同名の別の人物に憑依する形で転生したようだった。


「ともかく、これで俺は誰からも注目されない普通の人――モブになれる!」


 そう、喜んだのは転生から約十分ほどのことでしかなかった。


「えいっ!」


「痛っ」


 生意気そうな十歳くらいの男の子から、小石を投げつけられた。


「おい! 急に何するんだ!」


 なんて子供だ!


 公園のベンチで座っているだけの他人に石を投げつけるなんてどうかしている。


 いったいどんな教育を受けたらこうなるんだ? 親の顔が見てみたい。


 それともこの十三年で世界最高とされる東京の治安は地に落ちたのか?


 などと思っていたところ。


「セイヤモンは悪い奴! 鬼は外! 日本から出ていけっ! 正義が必ず勝ーつ!」


「痛いって! ふざけんな!」


 さらに小石をぶつけられた。


 投石は当たりどころによっては死ぬかもしれない危険な行為だ。子供だからなんでも許されるわけではない。さすがに警察案件だろうと思い、男の子に近づこうとしたのだが――


「こ、こっちくんな! 次は容赦しないかんな!」


 と、素早い逃げ足で去ってしまった。


 いきなり石を投げられたことに腹が立つのはともかく、さっきの男の子どうやら悪いことをしている認識がなさそうだ。


 むしろ、正しいこととでも思っていそうな感じだった。


 まさか、この身体の持ち主に原因があるとか……? まさかな。


 ピロン。


「ん?」


 ポケットに入っていたスマホの通知音が鳴った。


「今のスマホ……すごいな」


 十三年前のスマホとは比べ物にならないほど薄型化しており、映像を映すディスプレイも精細で素晴らしい発色をしていた。とてつもない技術進化だ。


 と、そんなことはどうでもいい。


 通知内容を確認してみる。


「ヨーチューペスタジオ……?」


 どうやら、ヨーチューペという動画投稿やライブ配信アプリについたコメントを確認できるアプリのようだ。


 十三年前もかなりの人気アプリだったが、今でも使われているらしい。


 ヨーチューペに投稿したライブ配信のアーカイブについたコメントだったらしい。


――――――――――――――――――――――――――――


 @user-cdsdsf43vsfv9qa

 全然面白くないんだけど。

 人様に迷惑かけるのが面白いと思えない私がおかしいの?

 いいね:9830 コメント:60


  @user-fflp5jbg8urm2oic

  面白くない動画にわざわざコメント残していくの草

  いいね:211


  @user-cdsdsf43vsfv9qa

   @user-fflp5jbg8urm2oic あなたは面白いと思うんですね。そうですか。へー、人生楽しそうですね。

  いいね:8211


  @user-u7hjd0okmgj3rgh

   user-cdsdsf43vsfv9qa 信者は放っておきましょ

   この配信者と頭のレベルが同じだから楽しめるんだと思う

  いいね:8076

  

  @user-knb8ukasi0h6jui

   これが日本の"普通"ですか?

   原文を見る(YouTupeによる翻訳)

  いいね:1011


  @user-jnb8unksl5g4iobv

   @user-knb8ukasi0h6jui

   違います

  いいね:7664


  @user-jbds9i6jngd5uyt

   同じ日本人として恥ずかしい…


――――――――――――――――――――――――――――


 どういうわけか、コメント欄が荒れているようだ。


 コメント内容をざっとみた雰囲気から察するに、今回の配信内容が特別というわけでもなく、普段から問題のある内容を投稿していたらしい。


 投稿内容を確認してみる。



【神回】初心者探索者に大量の魔物プレゼントしてみたったwwwww【迷宮配信#61】


【詐欺】スペックがわからない女探索者にそれっぽい武器売りつけたら儲かった件www【日常配信#114】


迷宮に落とし穴掘ってみたら引っかかって草ァwwwww【迷宮配信#60】



 なんだこれは……酷い、酷すぎる……。


 こんなの批判されて当たり前だ。


 ……というか、今の日本には魔物や迷宮があるのか?


 ググって調べてみる。


 どうやら、俺が転生した直後の十三年前から突如世界中で迷宮が出現するようになったようだ。


 異世界と同様に迷宮の中には魔物が潜んでいるようで、放置していると魔物が外に流出してしまうため発生すれば攻略しなければならないらしい。


 高難易度の迷宮は『冒険者』が攻略することになっているが、街の近くに発生する迷宮は弱いことが多く、冒険者の資格を持たない人たちに開放し、自由に攻略して良いことになっているらしい。


 そのようなアマチュアを『探索者』と呼び、彼らは動画や配信による収益を得ているとのこと。


「なるほど、だいたい状況はわかった」


 が、これ詰んでないか……?


 俺の顔は迷惑ばかりかける悪質配信者として世に知れ渡ってしまっている。


 日本中……いや、世界中のどこにいっても後ろ指をさされるような状況だ。


 俺がやったわけではないが、この身体の持ち主が犯してしまった悪行は永遠にインターネットに残り続ける。


「モブとして生きる第二の人生……早くも崩壊かよ……」


 どうにかする方法はないのか!?


 俺は、『迷惑配信 名誉挽回 方法』で解決策を探してみる。


 しかし、特に有益な情報はヒットしなかった。


 当たり前だ。あまりに特殊ケースすぎるし、そもそも世間は悪人に名誉挽回などしてほしいと思っていない。


 あらゆる情報を探している中で、『Z』というSNSで気になる投稿を見つけた。


――――――――――――――――――――――――――――

 糸井彩羅 / SaraItoi 30分前

 今から代々木公園にできた迷宮に挑戦します!

 配信するので皆さん応援よろしくお願いします!

 リプライ:981 リポスト:1.1万 いいね2万

――――――――――――――――――――――――――――


 糸井彩羅という少女は迷宮探索系配信者の中で今最も人気があるらしい。


 強さと美しさを兼ね備えた彼女は『アイドル探索者』と呼ばれ、老若男女問わず見るものを虜にしているとこのことだ。


 配信されている動画を確認してみる。


「おお……」


 この美少女は、画面越しでもわかる圧倒的な存在感があった。腰まで伸びた艶やかな金髪。透き通るような蒼い瞳。顔の造形は文句のつけようがない。


 特別身長は高くなく、華奢な肢体をしているが、健康的な肉体が見るものに元気を与えてくれる。


 それはともかく。


 ここからかなり近い場所にある迷宮を攻略しているそうなのだが、彼女の配信を見ていると俺はとあることに気付いた。


「この迷宮、どこかで見たことがあるような……?」


 異世界で見たとある迷宮と中の様子がそっくりな気がするのだ。


 薄れていた数十年前の記憶を掘り返してみる。


「あっ、偽装迷宮だ!」


 迷宮の外から一見すると弱い魔力しか感じず、中に入っても最初は弱い魔物しか出現しない。


 しかし、奥に進むとどんどん魔物は強くなってしまう。


 ヤバいと気付いて戻ろうとした時には手遅れであり、ほとんどの冒険者が生きて帰れなくなってしまう悪魔の迷宮なのだ。


 異世界で稀に発生したこの迷宮では多数の犠牲者を出した。


 だとすると、この少女が圧倒的な強さを誇っていない限りは危険かもしれない。


 助けたい……! とシンプルな感情が沸き起こると同時に、俺の心の中で天使が囁いていた。


『圧倒的な人気を誇る糸井彩羅の危機を助ければ、名誉挽回になるかもしれない』――と。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る