サボテン(仙人掌)
文重
サボテン(仙人掌)
「そこに腰掛けろ」
と言われてあたりを見渡したが、そこにはサボテン以外何もなかった。そのサボテンがまた都合よく椅子様の形状をしているものだから、やはり“そこ“というのはサボテンのことだろうと思ったが、さすがにこの棘の上に座れば尻が血だらけになりそうなので、私はただ曖昧に頷くだけでその場に突っ立っていた。
「なぜ座らんのだ」
「棘が刺さるので」
気分を害したのか、痩せた老人は空咳を何度か繰り返すと私に背を向けて立ち去ってしまった。
翌日も、そのまた翌日も全く同じ問答が繰り返され、気の遠くなるほどの時が流れたある日のこと、もはや抗う気力も失せた私はついにサボテンに腰掛けた。驚いたことに棘の1本とて私の体を傷つけることなく、木や布や革製の座面の椅子に腰掛けているかのごとく、私はいたって普通にサボテンの上に座っているのだった。
「及第じゃな」
仙人は一言そう呟いて、骨と皮ばかりの指で私が行くべき道を指し示した。
サボテン(仙人掌) 文重 @fumie0107
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます