第14話 ハチャメチャ?な打ち上げ。


「それじゃ、オーディション突破を記念して、かんぱーい!」


「「かんぱーい(!)」」


 夕凪さんおすすめのお店は、全席個室の落ち着いた内装の居酒屋だった。到着した俺たちは、さっそく労いの乾杯をする。

 俺と夕凪さんは生ビール、南條さんは烏龍茶。

 それぞれのグラスをコツンとぶつける。


「二人ともお疲れさま! 今日は無礼講だ! 食べまくろう!」


「あおっち太っ腹〜っ!!」


 南條さんのテンションはいつになく高い。よっぽどオーディションの合格が嬉しいのだろう。

 その横で、夕凪さんは手際よく食べ物の注文をしてくれる。なんて気が利くんだ。さすが夕凪さん。


「二人ともレッスン頑張ってたもんね。南條さんの歌がすごく上手くなっててビックリしたよ」


「なぎっちとあおっちのためにウチ、ガンバりましたっ!」


「夕凪さんのダンスなんか、最高超えて最強になってたし! オーディションの面接官もビックリしたらしいよ?」


「ありがとうございます。プロデューサーのおかげです」


 やってきた料理をつまみつつ、二人のレッスンの苦労話や、二人で一緒に出かけた時の話などを聞きながら、みんなで盛り上がる。二人はすっかり仲良しになったみたいで、お泊まり会などもしたらしい。


 ――そんな楽しい宴会が始まって30分くらい経ったころ。

 ポテトを頬張りつつ、ふと夕凪さんの方を見ると、お酒が回ってきたのか赤い顔をしていた。普段クールな夕凪さんの赤ら顔はなんともいえない色気を放っている。


「ぷろりゅーさー……」


 こちらを見つめながらトロンとした顔をしている夕凪さん。呂律もかなり怪しくなっている。もしかして飲み過ぎちゃったかな。


 心配になった俺は店員さんにお水を頼み、夕凪さんに飲ませようとした。


──その時。


「キャーーーっ♡ なぎっち、ダイタンっ!」

 

 俺の不意を突いて、スルリとこちらにやってきた夕凪さんが俺にしなだれかかってくる。

 お酒の匂いと、夕凪さんの甘い匂いがふわりと鼻先を掠める。


「ゆ、夕凪さん? 大丈夫?」


「はいぃ……。だいじょうぶれすぅ……」


 どう見ても大丈夫そうではない。

 気分が悪いというわけではなさそうだけど、その顔は明らかに酔っぱらいの顔だった。


「ちょ、ちょっと南條さんっ!? 見てないで助けて!」


「えーーーっ! いまイイところだしっ! 夕凪さん、ガンバレっ!」


 なぜかテンションMAXの南條さん。まったく頼りにならない。あなた、烏龍茶しか飲んでませんよね!?


 「わたし、がんばりましたぁ……♡ ナデナデしてくりゃさい……♡」


 とんでもないことを言い出す夕凪さん。南條さんはその言葉を聞いて、いけーだのやれーだの、ヤジを飛ばしている。エロ親父かな?


 仕方がないので、まったく離れる様子のない夕凪さんの頭をそ〜っと撫でる。すると、夕凪さんはうっとりした表情で俺の胸にグリグリと頭を擦り付ける。うぐぐ……。耐えろ、俺……!


「キャーーーっっ!!!!! そのまま結婚しろーーーーっ!」

 

 そんな俺の葛藤を無視して、狂喜乱舞する南條さん。

 夕凪さんにいたっては、もはや俺に抱きつこうとする勢いで俺の方に体を倒してくる。


「や、やめ……!」


 必死の抵抗も虚しく、押し倒される俺。夕凪さんの甘い匂いに包まれた俺の頭は沸騰寸前だ。


 南條さんはその様子をスマホでパシャパシャ撮りまくっている。くそ、あとでお説教してやるからな……!



 ――そんなハチャメチャな打ち上げは、やってきた店員さんの注意によって終わったのであった――。



 ――

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