第13話 オーディションと、打ち上げ。


 デビュー曲も完成し、いよいよ【ラブ・ブルー】のお披露目の日が近づいてきたころ。俺と夕凪さん、南條さんはオーディションのために、イベント企画会社を訪れていた。


――『New iDOL Festival』


 通称、『ニューフェス』は新人アイドルたちだけで行われる小さなフェスである。しかし、このイベントをきっかけに成長していったアイドルグループは数知れず。アイドルファンなら知らないものはいない有名フェスだ。


 デビュー自体をこのイベントでするのは極めて珍しいのだけど、俺の猛烈な営業の成果でなんとかオーディションに参加することができた。


 ◇◇◇


 「うぅ〜〜! めっちゃキンキョーするっ!」


 控室で忙しなくうろうろしている南條さん。あまり緊張するタイプには見えなかったのでちょっと意外である。


 そんな南條さんとは対照的に、いつもの澄まし顔でちょこんと椅子に腰掛ける夕凪さん。フィジカルだけでなくメンタルも強靭らしい。


 ちなみに俺はめちゃくちゃ緊張するタイプである。初めてバンドでステージに立った時のことは一切記憶にない。


 控室には数組のアイドルグループが待機している。他のアイドルたちも無言で集中しているようで、動き回っている南條さんだけが目立ってしまっていた。


 「ちょっと、アンタ! じっとしててくれない? 集中できないんだけど!」


「ご、ゴメンなさいっ!」


 そんな南條さんの様子にイラだった一人の女の子が声を上げる。怒られた南條さんはシュンとしてしまった。


「大丈夫ですよ、南條さん。わたし達なら絶対合格できますから」


「そ、そうだよね……! ありがとうなぎっち〜〜っ(泣)」


 俺もこの二人なら絶対に合格できると思っている。

 じゃなきゃ、わざわざオーディションなんか受けに来ない。


「南條さん、緊張するのは仕方ないよ。むしろその緊張感を楽しんでいこう!」


「う、うん! あおっちの言うとおりだよね!」


 そんなやりとりをしながら待つこと30分。ついに順番がやってきた。


 凛とした表情の夕凪さんと、緊張しながらも笑顔を浮かべる南條さんを見送る。俺は控室からエールを送っておく。がんばれ、二人とも。



 ◇◇◇



 そしてオーディションから一週間後。

 オーディションの合否を待つ俺たち。

 南條さんは祈るように電話機を見つめている。夕凪さんはなぜか俺の方をジッと見つめている。なんで?


 ――プルルルルルルッ!


 電話機が着信音を鳴らすとほぼ同時に、俺は電話機に飛びつく。


「……はい……はい……。ご、合格ですかっ!? ありがとうございますっ!」


 電話先からの合格通知に、俺は思わず小さくガッツポーズをしてしまう。


「やったっ! なぎっち、合格だって!」


 俺の声を聞いた二人は抱き合って喜んでいる。そんな二人の姿を見て、改めて頑張ってよかったと思った。


「よーし! 今日は俺の奢りで打ち上げだ!」


「マジかっ! さすがあおっち!」


「わたし、いいお店を知ってます」


 そんなやりとりをしながら、店の予約を済ませる。夕凪さんのおすすめのお店ということで、俺もテンションが上がってきた。


 ――しかし、その打ち上げであんなことが起こるなんて、その時の俺は思いもしなかったのだ――。

 

 


――

 打ち上げで夕凪さんが……!?

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