第10話 ささいな夢。


 ――夕凪 詩side――


 アイドルになってからわたしにはたくさんのやぼうが生まれた。例えば――

 

 ――彼の曲を歌いたい。


 もともとアイドルには興味がなかったけれど、せっかく彼のプロデュースで活動できるという幸運に恵まれのだから、わたしがこの考えに至るのは当然だった。


 バンドマンとして活動していた彼は、もちろん作曲ができる。しかし、わたしが直接頼み込んでも恥ずかしがり屋の彼は首を縦に振らないだろうことは分かっていた。


 デビューの準備が整うにつれ、彼がデビュー曲のことを考え始めたことに気づいたわたしは、早速行動に移すことにした――。


 ◇◇◇


 彼のことを知り尽くしたわたしは、彼の考えることが手に取るようにわかる。


 彼がとあるところに電話しているのを聞いて、それは確信に変わった。


 かつて彼と付き合いのあったバンドの三浦さん。

 頼るなら彼だと思っていた。


 予想が的中したことに彼との一体感を感じつつ、わたしは三浦さんと会うための準備を始めた。


 ◇◇◇


「えーっと、つまりあいつが俺のところに来たらその頼みを断ってほしいと?」


「はい。ただしわたしのことは内密にお願いします」


「わ、わかったからそんな目で見ないでくれ。美人に睨まれるとビビっちまう」


「絶対に断ってくださいね? もし失敗したら、あのことを奥さんにバラします」


「わ、わかったわかった! 断るからあのことだけは――!」


「あと、それとなく碧さんが曲を作ればいいんじゃないかという方向に誘導してください」


「はいはい……。ったく、とんでもないなアンタ……」


「とんでもないです」


 わたしの丁寧な依頼きょうはくを受けてくれた三浦さんは、はぁ、とため息をつく。


 これであとは彼が曲を作る気になってくれれば、わたしのささいな夢やぼうは達成される。


 ――碧さん、わたしの夢を叶えてくださいね?



──

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