第11話 作詞ならお任せを。



 ユニット名とデビュー曲が決まってからというもの、夕凪さんは上機嫌だ。

 

 あまり表情には出さないけど、たまに鼻歌を歌ったり、スキップをしたりしている。

 これだけ喜んでもらえるならデビューの準備を頑張ったかいがあった。めちゃくちゃ大変だったけど。


 しかし、デモ曲がほぼ完成したところで新たな問題が。

 ――そう、曲のタイトルだ。


 またか、と思われるかもしれないけど、またなんです。


 またまたコーヒーを淹れながらうんうん唸っていると背後から夕凪さんの気配。


 俺はついに夕凪さんの接近を察知できるようになったのだ。レベルアップというやつだ。


「曲のタイトルですか」


「うん。デモ曲はほとんど完成したんだけど、なかなかタイトルが決まらなくてね……」


 ちょっと前に同じやりとりをした気がする。気のせいかな?


「……【エターナル・ラブ】というのはどうでしょう。ちなみにこれもわたしの気持ちを込めてあります」


「おー。覚えやすくていいね」


 意外とまともな曲名がでてきたことに逆に驚く。気持ちがこもってるのが少し気になるけど。


 「【エターナル・ラブ】!? めっちゃイイじゃんっ!バイブスブチアゲなんですケドっ!!」


 またも話を聞きつけてやってきた南條さん。いつもと変わらない南條さんに謎の安心感を覚える。


「じゃあ、【エターナル・ラブ】で決定でいいかな?」


「はい」「うんっ!」


 ――綺麗なハーモニーで同意する二人なのだった。


 ◇◇◇


 曲名が決まったところで、さっそく作詞作業に取りかかろうとしたのだが――。


「うーん……。恋愛ソングかぁ」


 恥ずかしながら恋愛経験のない俺はいきなりつまずいた。それっぽい歌詞は書けるんだけど、大事なデビュー曲の歌詞としては薄味すぎる。


「どうしましたかプロデューサー」


「どわああぁっっ!?」


 レベルが上がった俺のさらに上をいく夕凪さんが突然現れる。夕凪さんのレベルも上がっているのか……!


「……差し出がましいのですが、わたしが作詞をしてみてもいいでしょうか」


「夕凪さんが?」


「はい。恋愛ソングなら任せてください」


 ドヤ顔の夕凪さん。確かにこんな美人なら恋愛経験も豊富そうだ。


「じゃあ任せてもいいかな? 出来上がったら俺がチェックするね」


「ありがとうございます。精一杯、愛を込めてかきます」


 にっこり笑顔の夕凪さんもかわいい。

 最近の夕凪さんは表情豊かで、より魅力的になったと思う。その笑顔にドキッとさせられることもしばしば。


 もっと夕凪さんを輝かせるために、俺もできることをしないとな。


 ◇◇◇


 ―夕凪 詩side―


 わたしには一つの趣味がある。

 それはプロデューサーへの気持ちをノートに残すという、とても生産的な活動だ。


 プロデューサーに出会ってから約一年。その間に書き溜めたノートはすでに五十冊を突破している。


 作詞作業など、わたしにかかればたやすいものだ。なぜなら、わたしのプロデューサーへの気持ちを書くだけでいいのだから。


 ――プロデューサーの曲に歌詞をつけれることの喜びに打ち震えつつ、わたしはノートにプロデューサーへの気持ちを書き殴るのであった。


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