第6話 慣れって怖いよね。
「あ、あんたがプロデューサーさん? よろっち〜〜」
新しいメンバーはまさかのギャル。
綺麗に染められた金髪をきゅるんきゅるんに巻いたその髪型は、まさにギャル中のギャルである。
「よ、よろしく。えっと、プロデューサーの相良碧です」
少し面食らってしまったが、なんとか自己紹介をする。
「じゃ、あおっちって呼ぶね! 一緒にがんばろーーっ!」
「お、おー!」
南條さんが腕を上げたのにつられ、俺も腕を上げる。
「あ、そっちの子が夕凪さん? めっちゃかわいんだがっ!?」
「はい。夕凪詩です。よろしくお願いします」
後ろに控えていた夕凪さんに気づいた南條さんが声をかける。
うわーとかきゃーとか言いながら夕凪さんの周りをクルクル回っている南條さんのテンションはMAXだ。これがギャルのノリなんだ……。
夕凪さんは少し南條さんのノリに戸惑っている。普段物静かな夕凪さんとは正反対のタイプだからなぁ。
「よろしくね、なぎっち!」
さっそくあだ名をつけた南條さんと夕凪さんが握手をしている。夕凪さんの目が心なしか鋭い気がするが気のせいだろう。
「あおっちもよろしくねっ! これから一緒にがんばろーねっ」
◇◇◇
新しいメンバーがやってきたということで、実力を図るために早速ダンスレッスンを体験してもらう。
本来ならオーディション段階で審査するべきなんだけど、うちみたいな弱小事務所に応募してくる人はほとんどいない。
だから南條さんはほとんど即採用という形だったのだ。
「ダンスなら任せてよっ! ウチ、こう見えてダンス部だったんだ!」
その言葉の通り、南條さんのダンスのレベルは高かった。ほとんど完璧といっていいだろう。しかし――。
「――夕凪さんのダンスやばすぎないっ!? プロレベルなんだが!?」
「ありがとうございます。プロデューサー、いや、あおっちのおかげです」
「マジかっ!? あおっちすごすぎない!?」
「いやいや、元から完璧だったから!」
◇◇◇
次はボイスレッスン。
「ウチ、歌はあんまトクイじゃないんだよねぇ……」
その言葉どおりに、歌唱力は平均的なレベル。
しかし、そのよく通るキラキラとした歌声はアイドルとしては素晴らしいものだった。
「てか、なぎっちの歌もエグいんだがっ!? なぎっち何者なん!?」
「ありがとうございます。あおっちのおかげです」
「マジかっ!? ウチもあおっちに教えてもらお!」
「……プロデューサーさんは渡しませんから」
「えぇっ!? あおっちと夕凪さんってそんな関係なん!?」
何か不穏な会話が聞こえた気がするが華麗にスルー。
夕凪さんと南條さんは話すうちにすっかり打ち解けたようで、仲良く談笑している。一安心。
しかし、普段ミステリアスな夕凪さんが世間話をしているのはすこし不思議な感覚だな……。
クールな夕凪さんと明るく親しみやすい南條さん。
その対照的なキャラクターを生かせば素晴らしいユニットになりそうだ。――ここからは俺の腕の見せ所だな。
◇◇◇
そんな決意をした次の日の朝。
いつものように俺の家のドアの前には夕凪さんが待っていた。
「おはようございますプロデューサー。今日もよろしくお願いします」
「おはよう夕凪さん。今日も頑張ろうね」
「……南條さんだけじゃなく、ちゃんとわたしも見てくださいね?」
「もちろん。三人で頑張ろうね」
すっかりこの光景に慣れた俺の適応力に自分でも驚いでいる。慣れって怖いね。
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