第3話 初めてのプレゼント。


 案内するとは言っても小さな事務所だ。10分ほどで終わってしまった。

 その間、じっとこちらを見つめられること数回。俺は真剣に案内を聞いてくれてるんだなぁと楽観的に考えていた。


「こんなところかな。まだまだ小さな事務所だけど、全力で支援するから。一緒に頑張ろうね」


「はい。精一杯頑張りますね」


 ――あなたのために。そんな声が小さく聞こえた気がしたけど、多分気のせいだろう。


「今日はとりあえずこんなところかな。明日からレッスンを始めようと思うんだけど大丈夫?」


 少し早めに切り上げる。明日からレッスンが始まるし、早めに帰してあげた方がいいだろう。


「必要なのは動きやすい服と、タオルと、あと……室内用の運動靴ぐらいかな? 飲み物とかはこっちで用意するから」


「はい、分かりました。……あの、わたし運動靴持ってないんです」


「そっか、急がせちゃってごめんね?」


「よかったら、選ぶのを手伝って欲しいんです。プロデューサーはこの後時間ありますか?」


 昼からは事務作業が少しあるくらいで時間に余裕はある。女の子だったら運動靴を選んだことも少ないだろうし、ついて行ってあげたほうが良さそうだ。


「もちろん大丈夫だよ! 近くにスポーツ用品店があるんだけど、そこでいいかな?」


「はい。プロデューサーが選んでくれたものだったらなんでもいいです」


「そ、そっか。信用してくれてるみたいで嬉しいよ」


 あまりこだわりがないタイプなのかな?

 女の子の靴を選んだ経験なんてないから少し不安である。


 ◇◇◇


 その後、すぐにスポーツ用品店に足を運んだ俺たち二人。足のサイズを聞いて、有名なメーカーのレディーススニーカーを選ぶ。パステルな色合いでなかなかかわいいんじゃないかな。

 少し高めの値段だったが、経費なのであまり関係ない。靴はいいのを履かないと怪我にもつながるしな。


「似合ってますか、プロデューサー」


「うん、とてもよく似合ってる。夕凪さんのスタイルならなんでも似合いそうだね」


「……ありがとうございます。一生大事にしますね」


「いやいや、消耗品なんだから」


「では、もう一足買ってもらってもいいですか? 傷んでしまった時用に」


「もちろん。じゃあ二足買っておくね」


 ダンスレッスンに使うものだし、予備の靴は大事だよな。さすが夕凪さん。


 ◇◇◇


 事務所に戻り、明日の集合時間を伝える。レッスンスタジオは別の場所にあるので、一度事務所に集合してから案内することにした。


「じゃあ、また明日。……あ、そうだ、連絡先交換してなかったね」


 何かあった時のために仕事用のケータイで連絡先を交換する。


「なにかあったら遠慮せずにすぐ連絡してね」


「分かりました。ありがとうございます、プロデューサー」


「いえいえ。気をつけて帰ってね」


 本来なら送り迎えもした方がいいんだろうけど、うちはまだ小さい事務所だ。しばらくは自分で移動してもらうしかない。


「はい。お疲れさまでした」


 事務所から出ていく夕凪さんを見届けた俺はふぅ、とひとつ息をつく。緊張したなぁ。


 たまにじっと見つめられると、心の奥を見透かされるような気がしてドキドキするんだよな……。

 ──いかんいかん、担当アイドルにドキドキしてるようではまだまだだ。


 気を取り直し事務作業を片付けていく。明日のレッスンが楽しみだ。



 

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