第17話 回る剣の魔族

 配信は絶好調だ。


 色魔サキュバスのバイオレット、犬のヴォルフを従えた。


 それから追加で二体が仲間になっている。


 天使族のミランダ。幻の天使と謳われていた彼女と顔を合わせたのは、中級ダンジョンのより深い階層だった。


 天使は、特に探索者へ害をもたらすことはない種族だ。むしろ、出会った探索者に恩恵を与えるという。


 姿を見られたのは奇跡といっていい。手で触れた瞬間、なんと使魔となっていた。不思議なこともあるらしい。


 いまのところ、会話を交わしたことはない。ミランダは、静かに微笑んでいるだけだ。


 天使がもたらす恩恵は、能力の一時的向上である。ピンチになったとき、身体能力・魔力操作の精度などが底上げされる。


 ミランダの能力に気付いたのは、次に仲間になった、リザードのリドとの戦闘時だ。


 果敢に立ち向かい、魔力ではない純粋な殴り合いで来られたのは予想外だった。


 フィジカル負けを喫しそうになったものの、魔力を使ったフェイント技で猛攻を切り抜け、分厚い肉を突いた。


 いずれも厳しい戦いであったのは否めない。丸三日はかかった。この間に、色魔サキュバスバイオレットの討伐動画が地味に伸びてくれた。チャンネルの成長は順調といったところか。


 どうも、中には実力派と認めてくれるような者もいるらしい。すこしずつだが、S N Sのフォロワー数も伸びている。現状維持で耐えてくれたら、食事には困らないだろう。


「……ということで、改めて俺の仲間を紹介していこうと思う。出てきていいぞ」


 使魔ファミリアとなった魔族は、俺の命令によって実体化させたり、体の中で留めたりすることができる。


 ダンジョン内の休憩スポットにいるので、安全だと判断し、全員を外に開放してやった状態だ。


「ご主人様に使える、バイオレット」「わん!」「(ニコ)」「オレ……リド……」


 ・壮観だな

 ・あっという間に四体も従えているってふつうにすごくないか


 個性豊かな仲間たちだと思う。このまま増やしに増やして、いろいろな能力を手に入れていきたいところだが……。


 俺とて、数多の魔族を従えていられるわけでもない。体の中がアイテム・ボックスのような無限の空間ならまだしも、俺は一介の人間にすぎない。


 無理なものは無理。残念ながら、六体までしか従えられないことになっている。


「あと二体しか同時に持てない、か。七体目にさしかかったらどうするべきかな」


 ・もう容量ないのか

 ・やめて! 追放ものは嫌い!

 ・仲間にしたり追放したり忙しくなりそうだなぁ


 六体しか仲間にできないことは、使魔ファミリアたちにも視聴者にも説明済みだ。強い能力の代償ということもあるから、致し方ない。


 むろん、単に六体しか保有できない、というのは嘘だ。


 使魔ファミリア同士の融合を重ねることで、各々の意識を残すことはできる。まとめてしまうところは申し訳ないけれど、仲間のリストラで忙しい配信者よりかはマシだと思っている。


「まー、考えるのはこのダンジョンを攻略し切ってからという話で」



 ・中級ダンジョンをさらりと攻略するのか……

 ・レベル違いすぎて焦る


「そんなに恐れ慄かれるものかな」


 確かに俺は強い。でも、鬼塚のようなトップ配信者にはまだまだ及ばない。配信者の海に飛び込んだ新人とあって、想定レベルとのギャップで驚かれているだけだろう。


 この程度の実力者なら、世界にはゴロゴロあふれていると思うし。


 ・ダメだこりゃ

 ・わけがわからないよ

 ・謙虚なのか? いや天然なのか?


 よくわからない議論が噴出しているがまあいいとしよう。


「さて、前述した通りこのダンジョンを攻略し切りたいわけだけど……」


 すでに半分以上は攻略している。そもそも飛ばしている層もあるので、意外に早く終わる予定。


 このくらいの中級ダンジョンは、自分がかつては乗り越えてきた道である。ここから先で、俺は挫折した。勘をもっと取り戻して、かつての自分を上書きできるようにしたい。


 そのためにも。


「もうすこし新しい使魔ファミリアを増やしておきたいかな。幻覚、透過、魔力操作向上、身体強化……」


 指示棒を使った戦い方のサポートになるものはガツガツ増えてきた。


 であれば、今度は新たな戦い方の導入となる。


 指示棒一本ではうまくいかない相手もいる。とりわけ、体のサイズが大きいのが相手だと、【教育】の力がすぐに行き渡らない可能性が大だ。


 そうなると、大きく振りかぶれる剣が欲しい。切り札的なものがいいのだ。


「であると、【チェーンソー大量発生】あたりに首を突っ込むのがいいかな」


 ・正気かよ!?

 ・もう知らないよ


 ダンジョンの作用により、剣と融合してしまった魔族の群れを、そう呼んでいる。


 剣がブルブルと震え、チェンソーのように歯が回転しながら近づいてくるために名付けられた物騒な名前だ。


 物量で攻める方法を知っていても悪くはないだろう。


「次の日にはいけるように、雑魚敵討伐にでも参りますか……」


 中級ダンジョン最深層は、使魔ファミリア六人のフルメンバーで挑みたいと考えている。


 そのためにも、今回の戦いは欠かせないと確信していた。

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ダンジョン配信学校の元失格教師〜退職したのでスキル【教育】で眷属を増やし配信業で食っていく〜 まちかぜ レオン @machireo26

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