第16話

 一度ダンジョンの魅力に取り憑かれたら最後、追い求めるしかなくなってしまう。


 なにせ、私もダンジョン配信者。


 平日は配信教師としての仕事があるので、撮影は難しい。休日であれば別だ。ほとんどの時間をダンジョン内での撮影と配信に費やしているといっていい。


 現在の登録者は数万人と、規模としては中規模にいくかいかないかくらい。すごいね、くらいはいわれるかもしれないけど、その程度だ。


 いずれ大人気配信者になりたいとは思うけど、自分にはそれだけの才覚がない。たくさんの人を虜にするほどの美女でもないし、探索能力もまずまず。


 だからこそ、渡君がダンジョン配信をやっているとするなら、全力で応援したい。


 ……と、ここまではすべて私の憶測の域を出ないだけだ。自分が渡君に求める姿を想像して楽しんでいるだけに過ぎない。


 でも。


 妄想は確信に近づきつつあった。


 ――「幻術を見せると噂の色魔に挑んでみた」。


 ちょっと前に、動画投稿サイトにアップロードされたというライブ配信。


 駆け出しの探索者が色魔に挑むだけの内容であり、なぜおすすめ欄に流れてきたのかもわからない。


 ただ、彼の配信は私と決して無関係なものではなかったのだ。


 投稿主は黒い仮面をかぶっているので、顔はわからない。それでも、体の動きや喋り方までは隠し通せない。


 じっと戦いを見ていく中で、どこか渡君らしさを感じたのだ。身のこなしや攻め方のパターンなど、見覚えがある気がした。


 ただの思い込みかもしれない。いなくなってしまった渡君の姿を、見知らぬ配信者に見出したかっただけかもしれない。


 気になってはいる。あの配信者、ここ数日であっという間に登録者を伸ばしている。チャンネル登録から一週間足らずで千人台を突破していた。


 なかなかの逸材かもしれない。そして、本当に渡君なのか、会って確かめたい。


 そんな思いが、胸の中で入り混じっていた。


 自分の中でやるかやらないか迷ったとき、大概行動を起こしてしまうというのが私の生き方だ。


 今回もそれに反していない。すぐさまS N Sのアカウントを特定し、私の配信者名義のアカウントからDMを送った。


 コラボの依頼だ。まだ駆け出しということもあって、人脈を広げたいと考えていると見て間違いない。


 登録者の多い配信者とコラボできるのは、あちらにとってメリットのはずだ。


 いける。


 返事はすぐに来た。


 オーケーです。快諾だった。


「よっしゃあ!」


 裏返った大声を出している自分に気づいて、なんだかおかしくなってきた。


 渡君かもしれない人とのコラボ。新進気鋭の実力派。


 いったいなにを考えているのか、真の実力はいかほどなのか、いろいろと探りを入れたい気持ちでいっぱいだ。


 私のチャンネルは、モンスターを静かに殺す系統。女性アサシンといったところ。


 海外からは「ジャパニーズ忍者」なんて呼ばれていたりもする。


 対して、渡君(仮)のチャンネルは、モンスターを仲間にして使役するといったもの。モンスターとの向き合い方は全然違う。


 渡君(仮)は、いわゆるテイマーの範疇に含まれるといえる。指示棒で突くだけで仲間になるというのはなかなか珍しいタイプ。


 視聴者の嗜好も異なっている。いや、そうでもないか。渡君は手に入れたモンスターの可愛さに惚れる男性視聴者がついている。私には女性が派手に動き回るのを求めて男性視聴者がついてくる。


 コメント欄で喧嘩にならないことを祈ろう。

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