急転(アリア視点)
「いよいよ王国の大使様が到着するそうだ」
「これでコルドラも国際都市ってやつだな」
「むこうじゃ絹織物がずいぶん安く手に入るらしい」
「そりゃあ仕入れて海のほうに売れば儲かりそうだ」
「街道が拡張されればうちの馬車もだせるかね」
新しい大きなお屋敷が<大使館>だと、通りに詰めかけた人たちが話していた。
ブライアンはあそこに住むのかあ
『アリア、ブライアンはお前の叔父さんだが、マンデヴィル伯爵でもある。外国の貴族には礼儀正しくしなければいけないよ』
ずっと前のパパの言葉が思い出される。
あの頃はわからないまま返事をしたけれど、今はちょっとわかる。
「会いに行って大丈夫かな」
私は小声で父さんに尋ねた。
「もちろん。ブライアンはアリアが大好きなんだよ」
パパはクスっと笑った。
テポラの知り合いがいないから、フードは脱いでいる。
眩しい太陽に栗色の髪がきらきら光った。
「お、着いたみたいだよ。アリア、肩車しようか?」
「もうそんな小さくないってば!」
茶化してくるディーリアにべえと舌を出す。
白い大きなお屋敷に、立派な馬車が停まった。
「おお、大使様はまだお若いんだなあ」
「一緒に降りてきたのは奥方様か?なんでも王妃の妹だそうだ」
「へえ、そりゃあ王様もコルドラを重んじてるってことだよなあ」
我がちに押し合い圧し合いする大人が壁みたいだ。
うう、ぜんぜん見えない。
悔しいがディーリアに頼む?
「バルコニーで手を振るはずだよ、みててごらん」
パパが屋敷の二階を指さした。
わああっと大きな歓声があがった。
ブライアンと、赤ちゃんを抱いた女の人がバルコニーに現れた。
そのときだった。
ドカン、ドカンと雷が落ちたような物凄い音がした。
悲鳴が上がり、通りの大きな建物が崩れた。
あつまった大勢の人は逃げまどったが、通りには人が詰めかけすぎていた。
「アリア!ディーリア!」
パパが押されよろけながら私に覆いかぶさった。
でも、ふたりして大混乱の人たちに踏み倒されそうになる。
「アリア!エリー!」
人を押し分け駆けつけたディーリアが私を抱き上げ、パパを抱きしめた。
私はほっとした。
ディーリアがいれば大丈夫。
だけど周りをみると、そんな安心は吹き飛んだ。
「ぎゃああ、いてえ、たすけてくれえ」
「瓦礫の下に夫が!」
血まみれで叫ぶ人、泣く人、さっきまで楽しいお祭りみたいだった通りは恐ろしい場所になっていた。
「大使館が……」
パパが呻いた。
さっきまでバルコニーのあった場所には大きな穴があいていた。
ぞっとした。
体中が震えて私は動けなくなった。
ディーリアが抱えてくれていなければ、へたりこんでいた。
「ブライアン、死んじゃったの?」
おもわずつぶやいた。
パパが勢いよく顔をあげた。
「ディーリア!アリアのことを頼む。アリア、いつかおじい様に顔をみせてあげておくれ」
パパはそう言ってぼくの両頬にキスをした。
それから、ディーリアの唇にも。
「エリー」
ディーリアがものすごく苦しそうにパパを呼んだ。
でも、パパは首を振った。
「後悔したくないんだ」
そういってパパは金の小鳥になって飛び立った。
パパが羽ばたくたびに、金の羽がひらひらと舞った。
「怪我がなおった!」
「血が止まったぞ!」
「奇跡だ!」
「おい、瓦礫をどけろ!みんなで掘り起こすんだ!」
パパは、ぼろぼろになった通りから大使館までをぐるぐると飛び回っている。
さっきまで倒れて動けなかった人が、とび起きて他の人を助け出しに走った。
「あの鳥だ!神様の化身だ!」
「ありがとうございます!」
騒動をしり目に、ディーリアはぼくを抱えて大使館へ走っていた。
「あいつらだ」
唸るように言ったディーリアの視線の先には、こそこそと隠れる男たちがいた。
「コルドラと王国の国交を邪魔しに街を破壊したんだ」
「やっつける?」
「あとでな」
大使館からブライアンが走ってくる。
赤ちゃんを抱いて、奥さんの手をひいている。
「ブライアン!パパが飛んでっちゃったの!」
「ブライアン、アリアをたのむ」
ブライアンが返事をするまえに、ディーリアが私をおいて走り出した。
その姿はみるみるうちに黒い大きなおおかみになった。
とつぜん現れた大きなおおかみに、空を見上げて感謝していた人たちが悲鳴をあげてまた逃げまどう。
「大丈夫だよ!街を破壊した悪者を追いかけてるんだ!」
私は精一杯声を張った。
すごい、すごい!
パパもディーリアもかっこいい!
「アリア、無事か?あのフェニックスが兄上なのか?」
「そうだよ!ディーリアがおおかみになったの!見て!」
おおかみになったディーリアがすごいジャンプをして、悪者たちにとびかかった。
兵士たちがブライアンをみつけて駆け寄ってくる。
ブライアンはパパとディーリア、というかくるくる飛び回る鳥と、建物の影からやっつけた男たちをくわえてでてくるおおかみをみて難しい顔をしていた。
どうしたんだろう。
「はじめまして、アリア。私はミレディア、ブライアンの妻よ。エリオットさまのおかげで命が救われたわ」
きれいな女のひとは優しい声で言った。
「私もエルリックも」
エルリックというのがこの赤ちゃんらしい。
「えっと、わたしのいとこですか?」
私はディーリアとパパが言ったことを思い出しながら、なるべく丁寧に言った。
ミレディアさんは私の頭を撫でた。
「ええ、これからよろしくね」
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