弟との再会
「途中の村も宿があるから、手ぶらでいいよ」
ディーリアは上機嫌だ。
アリアも浮かれている。
今は近所の子と菓子を買いに行っている。
気楽なものだ。
「遊びにしていいのか?大事な話かもしれないのに」
わざわざ手紙を寄こすくらいだ。
呼び戻すということは、後継や縁談がらみではないのか。
「エリーとアリアより大事な話なんてない。頼むから、やっぱり行かないとかいわないでくれよ」
ディーリアが心配そうに眉を下げる。
「わかってる。けれど、もしややこしそうなら、別行動でも大丈夫だから」
ディーリアの一族に会うつもりはない。
血統に誇りのある閉鎖的な一族だという。
子を持てない人外の恋人など、厄介者でしかないだろう。
親族に失礼のないように、と念を押す。
コルドラの上層部は人狼で占められているという。
目をつけられてはたまらない。
「手土産は用意したのか?」
「いらないよ」
やる気なくディーリアがいう。
「そうはいかないだろ」
まるで子どもだ。
ぼくは不貞腐れたディーリアの態度に苦笑した。
いつでも旅立つ準備はできていた。
この街にいられなくなっても、慌てないように。
すぐに逃げ出せるように。
けれど、物見遊山の旅なんて、いつぶりだろう。
そういえば、祖父が元気だったころは珍しい場所につれて行ってくれた。
弟のブライアンも一緒だった。
ぼくたちはいつも手をつないでいたっけ。
もう伯爵家を継いだだろうか。
彼なら勇敢に貴族の義務を果たすだろう。
とりとめのないことを考えながら、ぼくは旅行の荷物をまとめていた。
*
テポラを出発したのは、手紙を受け取った三日後だった。
天候にも恵まれ、まるでピクニックにいくような出発だった。
昼食をとってからのんびり発って、夕方に宿のある大きな村へ入る。
その後も、景色の良い谷があると聞けば遠回りをして見物した。
釣り道具の貸し出しがあると聞けば釣りをしてた。
アリアが一番多く釣った。
ディーリアが本気で走れば一日で着くという道のりを三日かけて進んだ。
「マルイ村の羊、大きかったね!」
「帰りにも寄って、毛糸を買おう」
「私、緑の帽子がいい」
「アタシは黒に緑のラインかな」
「……ぼくが編むのか?」
「エリーのはアタシが編むよ」
「私の釣った魚美味しかった?」
「あんな美味しい魚は初めてだったよ」
「新鮮だからな。アリアは漁師にもなれそうだ」
「えー、私はディーリアみたいに戦えるハンターになる!」
「……」
「そして、パパのこと守るよ」
「よかったなあ、エリー」
やがて、都市コルドラの城壁がみえた。
テポラでの身分証が使えたので、街に入る手続きはスムーズだった。
*
コルドラの街はすべての道が石畳で、馬車が街中を走っていた。
テポラよりはるかに大きいのは一目瞭然だった。
「すごいね」
「立派な街だな」
ここで暮したら生活費は大変そうだ。
たどり着いたのがテポラでよかった。
ディーリアのおすすめは三階建ての煉瓦造りの立派な宿だった。
一階は食堂で、二階三階は客室だ。
「一人部屋ひとつと、二人部屋でとってある」
ディーリアが言った。
もちろん二人部屋がアリアとぼくだ。
「三人一緒がよかったのに」
アリアが無邪気にいう。
「さびしかったらそっちのベッドに入れてもらうよ」
ディーリアがニヤっと笑って、意味ありげにぼくの腰に手をまわした。
「さっさと用事をすませてきたらどうだ?戻らなくとも夕食は待たないし、先に寝るからな」
ディーリアは大げさに肩をすくめた。
「ハイハイ。帰ったら、2-2-1でノックするから、確認せずに開けないように」
宿から出るな、ドアを開けるなと念を押してディーリアは出かけた。
「さてアリア、お風呂に入ろうか」
入浴して、残り湯で洗濯する。
部屋干しを終えてみると、アリアはベッドに突っ伏して眠っていた。
まだディーリアは戻らないだろう。
ぼくもちょっと横になることにした。
待つというのは、落ち着かないものだった。
*
うたた寝のつもりが、しっかり寝てしまったようだ。
目を覚ますと、窓の外はもう暗かった。
「アリア、お腹がすいたんじゃないか?」
「うーん、ごはん?」
遅くなると食堂が混むだろう。
ぼくはディーリアを待たずに食べに行くことにした。
テーブルはすでに三分の二ほど埋まっていた。
「やわらかい!美味しい!」
肉団子を煮込んだ料理は食べやすく美味しかった。
小さい子どもが珍しいのか、サービスだといって可愛らしい焼き菓子もだしてくれた。
にこにこと食べているアリアに目を細めていると、背後に誰かが立ちどまった。
ディーリア?
「まさか、アリア?」
聞き覚えのある声に、勢いよく振り返る。
「ブライアン?」
「兄上!」
はるか遠いマンデヴィルにいるはずの弟が声を震わせて私を呼んだ。
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