たのしい冬の日 (アリア視点)
「雪だ!」
私は窓にはりついた。
ガラスの窓だ。
ディーリアがいっしょに住むようになって新しくなった窓は外がよく見えるし、風は入ってこない。
「アリアは去年も雪を見て喜んでいたね」
パパはいうけど、私はあんまりおぼえていない。
一年も前のことなんて、大昔みたいだ。
「さわってきてもいい?」
「もう晩ごはんだから、明日にしなさい。朝までに積もるだろう」
「はーい」
雪がつもったら、雪玉をぶつけてあそべるし、そりすべりもできるってディーリアが言っていた。
だから、ずっとたのしみにしていたの。
私はちゃんとカーテンをひいて、窓からはなれた。
パパのひみつを守るためだ。
パパ、人間にみえるけれど正体は小鳥なんだって。
ディーリアは知ってるからいいけれど、内緒だって。
鏡やガラスには小鳥の姿が映っちゃうんだって。
だから、うちにはガラスや鏡がなかったんだ。
すごいね。
ぜんぜん知らなかった。
あ、そういえば羽で飛んでたような気がする?
あんまりおぼえてないけど。
じゃあ私は?ってきいたら、ふつうの人間だって。
えー、なにそれ。
ディーリアはじんろうだし、私だけふつうなんてつまらない。
そういうと、パパはすごく悲しそうな顔をした。
あれは言っちゃいけなかったんだ。
パパが大好きだから、一緒がいい。
でももう、ぜったいいわないって決めた。
「アリア、こっちのグラスをならべてね」
そういうディーリアはジュウジュウと音を立てるお肉を皿に移している。
「わあ、おいしそう」
パパが皿のお肉にベリーのソースをかけて、ゆでた野菜をのせる。
今日は冬夜の日、一年で一番夜の長い日だ。
無事に過ごせたことに感謝して、家族でちょっとしたご馳走を食べる。
ディーリアがうちに住むようになって、初めての冬夜だ。
秋の採取からかえってすぐ、パパとディーリアは友だちからこいびとになって、うちはさんにんかぞくになった。
「エリーとちゃんと付き合うことにしたんだ。一緒に暮らしてる」
ディーリアは街のみんなにそう言って回った。
驚いたり喜んだり、なかにはなぜか怒ったりした人もいたけれど、ディーリアがすごくうれしそうだから、みんなお祝いしてくれた。
怒ってるみたいだった化粧の濃い女の人も、他の女に盗られるよりマシねって、いい匂いの蜜の入った瓶をくれた。
ディーリアとこいびとになってよかったねっていったら、パパは、ディーリアは小鳥が好きなだけだから、とちょっとさびしそうだった。
そんなことないとおもうけどなあ。
パパだっておおかみが好きだからディーリアがいいわけじゃないでしょ。
おおかみ、格好いいけどね。
「いただきます!」
私は林檎ジュースで、パパは林檎酒、ディーリアは麦火酒で乾杯する。
「今日までの無事を」
「近づく春の足音に」
鹿のお肉はやわらかくて、甘いベリーのソースにぴったりだった。
オレンジやみどりの野菜が、春みたいにきれいだ。
ディーリアがハンターに伝わるおもしろい話をして、私たちはそれを聞いて笑った。
*
「アリア、今夜は一緒に寝よう」
あくびのでる私にパパがいった。
私の部屋じゃなくて、パパのベッドで寝るってこと。
「いいよ。ディーリアもね」
引っ越してきてすぐ、ディーリアもじぶん用に大きいベッドを買った。
だけど、今日みたいにパパとディーリアが夜更かしするときは、私はパパのベッドで寝ることにしている。
朝起きると、パパとディーリアもいて、さんにんでぎゅうぎゅうになって寝てるのが面白いからだ。
薬屋のおばさんにそういうと、おばさんはあらあらと笑っていた。
「おやすみなさい」
「おやすみ、アリア。よい夢を」
パパがおでこにキスをしていった。
私が眠るまで、そばにいてくれる。
一階ではディーリアがお皿を洗っている。
「明日雪がつもる?」
「ああ、おそらく」
「ディーリアがつくってくれたそりで滑れる?」
「暖かい格好でなら、いいよ」
「パパものせてあげる」
「……考えておこう」
だいじょうぶ。
ディーリアの作ったそりは大きいから、つめれば三人で乗れるよ。
そう言いたかったけれど、もう眠くて口がうごかなかった。
ぎゅうぎゅうになって眠っているはずの明日の朝がたのしみだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます