家族がふえた! (アリア視点)


「うーん」

明るい光がまぶしくて目がさめた。

みるとテントの布が半分あいていた。

朝だよって、ディーリアが開けたんだとおもう。

パパは私にだきついてねむっている。

私のほうが早起きなんて、はじめて。


「おはよう、あさだよ、おねぼうさん」

パパのおでこにキスしていった。

私を起こすときの、パパのまねだ。


「ううっ」


へんな声をだしたのは、パパじゃなくてテントのそとで胸をおさえてしゃがんでいるディーリアだ。


「おはよう、ディーリア」

「おはよう、アリア。エリーは疲れてるんだね、寝かせておこう」


ディーリアにいわれて、私はそっとテントを這いだした。

みんながおもうよりパパはつよい。

ケンカや狩りはしないけど、疲れたり病気になったりぜんぜんしない。

そんなパパが疲れてるなんて、どうしたんだろう。


きのうはげんきだったのに。


「パパ、どうしたの?」


私は何か知ってるみたいなディーリアにきいた。

ディーリアはなんだかすごくうれしそうだ。


「ゆうべいろんな話をしたの」

「けんか?」

「まさか!おたがいのひみつを打ち明け合ったんだ」


それは、すごいことだと私はわかった。

パパは、だれにも内緒のことがたくさんある。

私が大人になったら、ぜんぶおしえてくれるって言ったけど、ディーリアはもう教えてもらったんだ。


「ふうん。でもぜんぶじゃないよ、きっと」

私はちょっと意地悪な気持ちでいった。

パパに頼りにされるディーリアがうらやましかった。


「いいさ。これからだって時間はあるんだから」

ディーリアは笑った。

「アリア、アタシは人狼なんだ」

「じんろう?」

「狼の力を持っているの。人より強いし、耳も鼻もきく」


へえ。

私はディーリアをじろじろとみた。

オオカミっぽさはない。


「一族以外に知っているのは、エリーとアリアだけだよ」

「ひみつはまもるよ」

私は胸をはった。

ディーリアは家族みたいなものだから、まもるのはあたりまえだ。



私たちは、きのう摘んでおいた蔓葡萄をたべて、パチンコの練習をした。

テントのちかくに来たハトをディーリアが撃った。

私もべつの鳥を狙った。


「だめだ、アリア。その鳥は小さすぎる」

「小さくても食べられるよ。それに小さい的で練習しろっていったじゃない」

「かわいそうだからやめて。アタシは小鳥が好きなんだ」

「ふうん。小鳥を飼いたいの?」

私は、街の花屋さんを思い出してきいた。

お店に鳥かごがあって、みどりに白のまじった小さい鳥がピルピル鳴いていたっけ。

ディーリアはちょっと恥ずかしそうに微笑んだ。

すごく優しい顔だった。

「あのさ、アリア。街に帰ったら、アタシも一緒に暮らしていいかな?」


なにそれ、おもしろそう!

でもそうさけぶまえに、私は考えた。

ディーリアがうちにいて困ることはある?

パパの隠しておきたいことがバレるかも。

でも、ひみつを打ち明け合ったっていったよね。

なら、だいじょうぶかな。


ディーリアがいていいことは?

狩りや戦いかたをおしえてもらえる。

私はパパが大好きだけど、採取だけじゃなくハンターもしたい。

それに三にん家族のほうが、たのしそう。

パパははディーリアは自分の家族を持つっていうけれど、そういうとき、すごくさびしそうなこと、私は知ってる。


「いいよ」


「やった!」


私が頷くと、ディーリアは私の脇を持ち上げてグルグル回った。

そして、練習につかっていたパチンコをくれた。


「アタシがいないときは、これでエリーを守ってね」



そんなとき、ねぼうなパパがやっと目を覚ました。


「アリア!」

パパが私を抱きしめる。

「おはよう、パパ。もう元気になった?」

「ああ」

でもなんだか、いつもより顔が白い。


「顔色がわるいよ、無理するな」

ディーリアも心配している。


「そうだよ」


「そうかな」

そしてパパは小さい声で、ちょっと早いがもう帰ろうといった。




私たちは、街へと戻ることにした。


その前に私は朝ごはんの蔓葡萄をパパに食べさせる。

パパは欲しくないっていったけど、朝ちゃんとたべないと元気がでないっていつも言ってるのはパパだからね。

私があーんと葡萄を運んであげるのをみて、ディーリアがまた苦しそうにしてた。

ものすごく羨ましそうだったけれど、かわってあげない。

ディーリアは荷造りがあるからね。

テントも毛布も鍋も、ものすごい大荷物にまとめて背負っている。


ディーリアすごいね!さすが<じんろう>だね!」

私がそういうと、パパの目がまるくなった。

「私も家族だから、ひみつはまもるよ!」

パパは泣きそうな顔で私をみた。


「ハトは持って行って、途中で昼食にしよう。エリー、歩ける?」

ディーリアが聞くのに、父さんは何度も頷いた。


ディーリアが私をひょいと肩車して、パパに手を差し出した。

パパは遠慮してた。

引っ張ってもらえばいいのに。


このあたりは木がまばらだから肩車でも大丈夫。

「しゅっぱつしんこう!」

私は楽しくなって声をあげた。

「おー!」

ディーリアが大きな声でこたえてくれた。

背中には大荷物、私を肩車してても余裕そうだ。

どれぐらい力持ちなのか、こんど見せてもらおう。


葉っぱが落ちて、すきまのふえた枝のあいだから青い空が見える。

泊まりのおしごとが終わってしまうのはさびしいし、冬はつまらない。

けれど、ことしは街にもどっても楽しいことがいっぱいありそうだった

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