わたしはアリア (アリア視点)

私はアリア。

5さい。

パパはエリオット。

生まれたのはマンデヴィル伯爵という偉い人の村だ。

だけど、ママがいなくなって、私とパパはこのテポラの街に引っ越してきた。

といっても、私はこの街に来る前のことをおぼえていない。

赤ちゃんだったからね。


パパとずっと一緒にいたことはたしかだ。

私を抱っこして高い崖のうえまで飛んだのも。

でも、その話をするとパパは困った顔をする。


「前みたいに背中から羽を出して飛んじゃえばいいのに」

「そんなことできる人間はいないよ。夢でもみたんじゃないか?」


<みんな>とちがうのは、ダメなんだろうか。

パパはヒミツにしておきたいみたいだから、私もだまっている。



私とパパは森で葉っぱや木の実をあつめる。

それを持っていくと、お店のひとは喜んで、お金をくれる。

たのしい仕事だ。



ときどき、パパとなかよくなりたい人がいう。

母親がいないなんてかわいそうだと。

お母さんになってあげるって。

それをいわれると父さんはしょんぼりするし、私はいやな気持ちになる。


「お母さんなんていらないよ」

パパがいるから、私はいつもしあわせだ。

かわいそうなんかじゃない。


パパとディーリアの間で手をつないで歩く。

時々、ふたりに持ち上げられてびよーんと跳ぶ。


ディーリアはパパの友だちだ。

パパはディーリアといると楽しそう。

ディーリアは私をかわいそうだと言わない。

それに、強くてかっこいい。

美人でスタイルもすごくいい。

りっぱなお胸は大人って感じがする。


「アリアはエリーと家族でいいなあ」

そういう時のディーリアはちょっと寂しそう。

ディーリアはひとりぼっちだ。

だから、特別に私とパパの仲間にいれてあげる。


パパは、ディーリアは自分の家族をもつから、私たちと家族にはなれないっていう。

そんなことないとおもうんだけどなあ。



このまえ、晩ごはんの買い物のとちゅうで、ディーリアが<カフェ>にいこうって言いだした。

美味しいおやつが食べられる店だって。


「いきたい!」

私はパパのぶんも大きな声で返事をした。

「よし、出発!」

ディーリアが嬉しそうに言った。

つれられてついたのは、できたてのお店だった。

店先には、みほんのお菓子がかざってある。

どれも美味しそうできれいだ。

クリームをはさんだまるいのと、ジャムののったきれいなのがとくにすてきだ。

ねえみて、と振り向くとパパはいなかった。


「あれ?パパは?」

「先に買い物するって、行っちまったよ。いったいどうしたんだろうね」

きゅうに置いていかれてディーリアは困っている。

私はもういちど店をみて、おもいついた。


「なにかわかったの?」

「うん。でも、ひみつだからねー、どうしようかなー」

ディーリアになら、おしえてもいいんじゃないかな。

パパのこと、いつも助けてくれるし。

お店のひとがよびに来て、私とディーリアはおやつを注文した。

さっきのクリームのと迷ったけど、ディーリアがお店のひとに聞いた<おすすめ>にした。

ふかふかした分厚いビスケットだった。


「エリーに買って帰ろう」

一口かじって、ディーリアはすぐに言った。

私はうれしくなった。

やっぱり、ディーリアにならおしえてもいい。


「あのさ、さっきのことだけど、パパはガラスが嫌いなんだよ」


ディーリアは心配そうな顔をした。

「そう。だれでも苦手なものはあるからね。アタシが聞いてよかったの?」

「いいよ。ディーリアは、だいたい家族みたいだから」

私がそういうと、ディーリアはちょっと泣きそうな顔で笑った。


それから私たちはたくさん焼き菓子を買った。

パパが店にこれなくても、私たちが持って帰ればいいのだ。



晩ごはんは楽しかったのに、つぎの朝におきるとパパは悲しそうだった。

「ディーリアのせい?」

「ちがうよ。ぼくが台無しにするようなことを言ったんだ」


わかった。


「ディーリアに他の人と仲良くしたほうがいいっていったの?」

パパはびっくりした顔をした。

ほらね。

「ディーリアがひとりぼっちなのが心配なら、私たちが家族になってあげればいいよ」

「そういうわけには、いかないよ」


なぜだめなのか私はわからない。

ディーリアが来なくなったら、パパだってさびしいのに。


私たちは朝ごはんに昨日買ってきたお菓子をたべた。

クリームのはさまったのは、すごくおいしかった。


「おいしいね」

「ああ」

「なかなおりしてね。私、ディーリアンに弓を習うんだから」

パパは自信なさそうにうなずいた。

もう怒ってきてくれないかもっておもってるんだ。

そんなはずないのにね。

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