エピローグ
「ヨ、キョーダイ」
休み明けの昼休み、屋上で一服していた間部は入ってきた俺の姿を認めるとニッと口角を上げた。
「ドーヨ、チョーシハ?」
「お陰様でぼちぼちだ。その節は色々世話んなったな。今度ラーメンでも奢らせてくれ」
「お、気前イーネ。コレがソツギョーしたオトコのヨユーてヤツ?」
「ほっとけ」
間部の隣にウンコ座りになり、ため息をつく。
「にしちゃーヒョージョーが冴えねーじゃねーカ。何かあったンカ?」
俺はフッとニヒルに笑い、
「ああ、まるで心にぽっかり穴が開いちまったみてーさ」
抜けるような青空を見上げ、遠いお目々をした。
「実はあの後、人体の神秘をテーマにした読んでるとやけに下半身がハッスルしてくる不思議な学術的書物の存在がエリにうっかり露見してしまってな。それからというもの夜を徹して徹底的なガサ入れが行われ、結果執行猶予もなく一冊残らず資源ごみ行きだ。見せしめとして一番使用頻度の高いと判断された愛用書をこの手で八つ裂きにさせられた。あとスマホの画像、ブックマーク、サイトの閲覧履歴に至るまで漏れなく洗われた後、レンタルショップの会員カードも差し押さえられた瞬間シュレッダーで粉々に……」
「えげつネー……」
間部は教科書に載せたいだけお見本のような憐れみの眼をくれてきた。ぐすん。
「そンでエリちゃんはなンてヨ?」
「『そーゆーことシたくなったらあたしを呼べばいーじゃん』……だそうだ」
「オンナだナー」
「オンナだ」
しみじみと頷き合う。
「マ、夜のお供はオレがツゴーしてやンとしテ、ケーキづけにコッチもソツギョーしとくカ?」
間部は箱から茶色のフィルターを突き出させ、人生初ニコチンを勧めてくる。
「ホレ、ソツギョーショーショ」
「アホか。んな有害物質吸ってこの人類の宝が夭折したらどうしてくれる。近々どっかに埋められるか沈められるかする老い先短いお前はどうでもいいが、俺という偉大なる存在を失ったこの国がどうなってしまうか、考えるだに恐ろしい」
「キョーダイのそーゆーテッテーしてテメーにアメーとこ好きだゼ」
「今更何を当たり前のこと言ってやがる。考えてもみろ。俺以外の誰がこんな奴甘やかしてくれると思う? どうせ誰も甘やかしてくれないなら、自分で自分を嫌になるだけ甘やかし、とことん甘ったれて何が悪い。そもそも現代人は自分たちに対して厳しすぎる。世の中はもっと俺を見習って、自分に対し無闇矢鱈と寛容であって然るべきだ」
持論を言って聞かせてやると、間部は「チゲーネー」と紫煙を吐きながら笑った。
「けどヨー」
間部はタバコの箱を内ポケットにしまいながら、
「こーして二人は付き合いましたとサ、メデテーメデテーとなりゃイーケド、コレでハッピーエンドとは限ンねーゼ。またいつキョーダイの身に次のオードーが襲ってこねーとも言い切れネー。そンときゃどーすンヨ?」
「フン」
そんなの決まってる。
王道だか近藤だか知らんが、この桜木正義に立ちはだかろうという無礼者は、それがどんな強大な壁だろうと関係ない。
もれなく破壊し、
乗り越え、
潜り、
拝み倒し
なおもって無理そうなら見なかったフリして回り道してくれる。
よって――
「俺は絶対、王道なんかに負けたりしない」
絶対、王道なんかに負けたりしない 鹿乃北洋 @kanohokuyo
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