第29話

 大砲の轟音が鳴り響き、次々に砲弾が落ちてきて地面をえぐる。

 大砲の命中精度は高くなく、野戦においてはただの威嚇にしかならない。

 実際、ドラランド軍は大いに取り乱して、カリファ軍を迎え撃つ準備が遅れている。

 俺も加勢しなければと、体が動きそうになるのを何とか堪える。

 俺はドラランドを裏切った身、戦う義理はない。それよりもこれを好機と思い、逃げるのが最優先だ。


「マリウース!!」


 そのとき、聞き慣れた相棒の声が聞こえた。


「トカロン!? なぜここに!?」

「よかった、追いついた!」


 騎乗したトカロンが近く駆け寄ってくる。


「カリファに逃げるんだろ?」


 なぜそれを知っていると問いたかったが、長く連れ添った友だ。俺の考えなどたやすく把握できるのだとやめる。


「松風を放ったのはお前だな」

「バレてたか」


 ルーベから逃げるとき、厩舎につながれていたはずの松風が飛び出してきた。トカロンが気を利かせて逃亡を手伝ってくれたことは、推測できていた。


「じゃあ、逃げるぞ」

「お前もいくのか? 逃亡は死刑だぞ」

「あいにく俺も重罪人でね」


 そう言うとトカロンは馬を返す。

 すると背に誰かを乗せているのが見えた。


「ニノン!!」


 メラニーが叫ぶ。

 顔を隠すように大きなローブをかぶっていて誰かわからなかったが、メラニーはすぐわかったようだ。


「お姉ちゃん!!」


 ニノンは声のしたほうに手を伸ばし、メラニーは天津風を降りて手に取った。


「ニノンを連れ出してくれたのか!?」

「可愛い女の子を神様になんかやれるかよ」


 トカロンは軽口を叩いてみせるが、犠牲になるニノンを放っておけず、誘拐や逃亡などの罪を犯すのをわかって行動に移すのは簡単ではない。


「じゃあ、国境突破といくか!」


 そう。再会を喜んでいる場合ではない。

 目の前ではドラランドとカリファの戦いが行われている。この間に国境を突破してカリファに入るのだ。


「メラニー!」

「うん!」


 メラニーはニノンの手に頬を寄せて、すぐに天津風に飛び乗ってくる。

 メラニーがいる。ニノンがいる。トカロンがいる。

 必要なものはすべて揃っていた。何を恐れることがあろうか。

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