メラニーパート
第21話
私たち二人は野宿をしながら、マリウスの叔父ハリバルのもとへ向かった。
罪人であるため、道中では堂々と行動することはできず、服や食べ物を人様から勝手に拝借することになった。
まさに罪人だけど、命の危機に際して行ったことなので、神様にはどうか許しを請いたいところ。
それから山野を越えて数日、ついにハリバルの山小屋に到着した。
マリウスの読み通り、ハリバルは私たちを受け入れてくれた。
もちろん積極的にかくまってくれるというわけではなく、勝手にそこにいるだけなら許可するということだった。
「これだから政治というのは面倒だ。民のためといいながら、まったく民のためになっておらん」
こちらが事情の説明を終えて、そう言ったのはハリバル。
ごもっとも過ぎる。
「しばらくはここに置いてやるが、おぬしらもどこか山奥に隠れて暮らすがよかろう。社会の秩序を壊したのだ。二度と俗世に出ようと思うな」
「はっ、お心づかい感謝いたします」
マリウスが答えた。
ハリバルは騎士をやめて絵描きになったというけれど、山小屋は絵画だらけだった。
玄関から始まり、居間や寝室まで絵画で埋め尽くされている。
芸術には詳しくないけれど、目を留めるような絵はたくさんあって、きっとうまい部類に入るんだと思う。
絵は風景画が多いが、人物画もあった。
その中に、見覚えるのある服を着た男性の絵があるのを見つけた。
「あの、この絵って……」
「神の肖像画だ」
「これって伝統衣装ですよね?」
マリウスが着ているものに似ている。袖のついた布を何枚も重ねて、上から帯で締めている。
「そうだ。大昔、神が姿を現したとき、そのような格好していたらしい。人はそれを真似てキモノを作った」
「キモノって言うんだこれ……。って、神様が姿を現したりするんですね」
祭祀を司る家に生まれたけれど、神の姿について聞いたことがなかった。
この神様への第一印象は、人間っぽい、だった。
豪華なキモノを着て、大きな白馬に乗っている。髪は現代の男性より長いけれど、取り立てて神様らしい感じがしない。
もちろんその絵から強い威厳は感じるけれど、王様と同等のようなものだった。
「そうだな。神はめったに姿を現さない。しかし、この神は目立ちたがり屋で、わざわざ人前に現れたという。もっともここ何百年か、いや数千年かもしれぬが、その姿を見たものはいない」
「何か事情があったのかな……」
やはり神に関わることでモーリア家に伝わっていないのが気になる。
神話の中で隠さないといけない事情があったのではないかと勘ぐってしまう。
「でも、神様について詳しいんですね」
「人が嫌になったからな。神も神で面倒なものを持っているが、超常的であるからこそ面白い」
その気持ちはわからないでもなかった。
人のよくわからない思惑で私たちは殺されそうになった。
一方で、神が人の花嫁を望んでいるというのが本当であれば、神も相当嫌な存在だ。
もしかするとハリバルも現役騎士時代の嫌なことがあったのかもしれない。
「必要なものは勝手に持っていけ。面倒事だけは持ち込むなよ」
「ええ、それはもちろん!」
ハリバルは悪い人ではないけれど、聞いていた通り、人間自体を好きではないようだった。
でも、ハリバルの言う通り、私たちはもう世に顔を出すことはできない。
ハリバルのように誰も住んでいない山の中でひっそりと暮らすことになるのかもしれない。
マリウスと二人っきり。
それが嬉しいのか、嬉しくないのか、よくわからなかった。
妹や父のことなど、気にしないといけないことがまだ多すぎた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます