第18話

 村中を走り回ってみたが、メラニーは見つからなかった。

 メラニーの家はもちろん、いつも立ちよるお店、一人になりたいときにいく場所、思い当たる場所はすべて回ってみた。

 しかし、もうすぐ入棺の時間になってしまう。

 最後に作業小屋に行ったところで、メラニーはついさっきまでここで寝ていたことを聞く。そしてニノンのもとへ向かったという。

 俺はメラニーを追って社に急いだ。

 表には参列者が大勢いて近寄れそうもなかったので、俺は裏から社に入った。


「メラニー? ニノン?」


 社には人の気配がまったくなく、誰もいなかった。

 おそらくニノンはすでに花嫁衣装への着替えを終え、棺のほうへ移ってしまったのかもしれない。


「ちっ……。なんたる失態だ……」


 明らかな失策だった。

 このままでは二人を仲直りさせるどころか、自分もニノンの最期に立ち会えなかった。

 完全に兄失格である。

 

「くそっ!」


 怒り任せに柱を叩いてしまった。

 そのとき、どこかでカツッと小さい音が鳴った。

 何かが木にぶつかったような音だ。

 しかし部屋には誰もおらず、振動が何かに伝わっただけかもしれない。


「ン? おいおい……」


 やはり気になってその奥を調べてみると、思わぬものを見つけてしまった。

 衣装箱の裏に、メラニーの服が無造作に脱ぎ捨てられていたのだ。

 この状況から推測できることは多くない。

 何かがあって、メラニーが花嫁衣装を着た。

 全身にぞわっとした恐怖が駆け巡る。戦場でもここまでの危機感を感じたことがなかった。


「メラニー!!」


 俺は駆け出していた。

 メラニーはニノンの代わりに花嫁衣装を着て、棺の中に入ったに違いない。

 まだ間に合う。棺を運び出してはいないはずだ。

 だが、次の瞬間には足が止まってしまった。


「これでいいのか……?」


 メラニーが花嫁衣装を着たのは、自分を犠牲にすることで間違いなくニノンを助けるためだ。

 ここで俺がこの入れ替わりを正すと、メラニーは助かるが、ニノンは死ぬことになる。

 ニノンの死は確定していることだから、それはそれで正しいのかもしれない。騎士としてその状態に戻す行為は当たり前のことのはずだ。

 けれど俺は動けなかった。

 自分の行為がメラニーの思いを無駄にして、ニノンを殺すことになってしまう。メラニーがそれを喜ぶわけがない。


「見過ごす……? そもそもメラニーが入れ替わったというのは俺の思い込みだ……」


 いくらメラニーでも、そんな思い切ったことはしないだろう。

 メラニーはここで正装に着替えただけで、ニノンは予定通り花嫁として棺に入った。

 そうだ、それに違いない。それが起こりうる普通の事態だ。姉妹が同じ場で着替えてどこに不思議があろうか。

 次の瞬間、俺は自信の顔を殴った。

 バシッと小気味よい音が社内に響く。


「バカ言うなよ……。メラニーが普通じゃないのは俺が一番わかってるだろ……」


 俺は本当に弱い。

 ここまでの判断に至るまで迷いすぎだ。この迷いが命取りになるのはわかっていたはずなのに。


「俺がやるべきことは決まっている」


 花嫁として棺に入ったのはきっとメラニーだ。

 メラニーは俺に助け出されるのは不本意かもしれない。でも、俺はメラニーを助けたい。

 それは騎士としての責務とかそういう話ではない。

 俺自身がそうしたいと思っている。


「花嫁を盗み出す」


 俺は倉庫から持ち出してしまっていた仮面をかぶった。

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