第16話

 突然、外が騒がしくなった。


「捕らえろー!!」

「絶対に入れるなー!!」


 甲冑が鳴らすガチャガチャとした金属音が迫ってくる。

 明らかに想定外のことが起きて、騒動になっていることがわかった。

 何も掴めない暗闇の中で、不思議とそれに安心感を覚えてしまう。意識が死から離れられるのが嬉しい。


「な、何者だ……!」


 動揺しながらも、威厳をもって言うのは、騎士であり、将であるロベール。

 不審者が祭祀場に乱入したようだ。


「我は花盗人! 花嫁を盗みに参った!」


 不審者が叫ぶ。

 その瞬間、突然横に対して体が強い力を受けた。


「きゃっ!?」


 どうやら棺を蹴飛ばされたようだった。

 横に倒されて蓋が開き、棺から私は投げ出されていた。

 そこにいたのは、仮面をつけ、長剣を持った男。

 その格好は知っていた。

 収穫祭りで使われる伝統衣装、そして顔をすべて隠してしまう仮面。それはうちの倉庫に保管されているものだ。


「花盗人……」


 男はそう名乗った。

 花盗人は親に反対される、身分が違うなどの理由で結婚できなかったとき、他の人と結婚すると見せかけて、本命の人が花嫁を誘拐をすることで添い遂げようとする、超法規的な習慣だった。

 正体を隠すために仮面すると言われているが、その男はまさにその格好だった。


「立て」


 花盗人に腕を引っ張られ、訳の分からないまま私は立ち上がった。


「誰……?」

「神様の花嫁を盗む者だ」


 花盗人はそう言うと、強引に私を抱え込もうとする。

 ものすごい力だった。

 右手に剣を持ち、左手で私を左脇に挟み込んでしまう。

 私は手錠をしていることもあって何もできない。


「道を開けろ!!」


 花盗人が怒声とともに剣を向けると、その先にいた民衆が下がって道ができる。

 そして、私を抱えたまま走り出した。


「通すな! 捕まえろ!!」


 後ろのほうで叫んだのはロベールだった。

 その声であっけにとられていた兵士たちがようやく動き出す。


「止まれ!」


 警備に当たっていた兵士が槍を構えて進路を防ごうとするが、花盗人はひょいとそれを飛び越えてしまう。

 人を抱えたままこの跳躍。人間業と思えなかった。

 後ろから兵士たちが追いかけてくるが、走る速さも尋常ではなく、どんどん距離を離していく。


「あなた、もしかして……」

「俺に気付かないとは、やっぱり姉のほうだな」

「ン!?」


 そうだ、なんで気づかなかったんだろう。

 その声は誰よりも知っているはずだった。

 追いかけて来る兵から離れたところで、花盗人は仮面をずらしてみせる。


「マリウス!! どうしてここに!?」

「それを言いたいのはこっちのほうだ」

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