第11話

「あー、でも嬉しいな! マリウスさんとお姉ちゃんが結婚かあ! おめでとう、おめでとう、おめでとう!」

「あ、ありがとう。だが、なんで三回も言う?」

「だって、自分のことみたいに嬉しいんだもん!」


 ニノンはその言葉の通り、嬉しがってみせる。

 これから死なねばならぬのに、どうしてそんなに喜べるのだろう。

 戦地に向かう兵士は「これで自分は死ぬのか」という気持ちになるものだが、兵士は己がうまく立ち回れば功績も上げられ、生還もできる。

 だが人柱は強制的な死が訪れ、決して逃れることができない。

 自分においても「敵陣に突撃で死んでこい」と命令されたら、その命令の通りに動くが、できる限り生きて帰ることを考えるだろう。

 しかし、「この場で自害せよ」と主君に命令されたら、何を思うだろうか。命令に逆らおうとするだろうか。それとも、この世界に失望して怒り狂うか。きっとまともな判断なんてできない。


「ニノンは強いな」

「強くなんてないよ。これまでマリウスさんとお姉ちゃんに迷惑かけてきたから、最後くらいはかっこつけようと思ってるだけ」


 そう、強くなんてなかった。まだ10数の少女なのだ。

 これまでしっかりしていたニノンの声が次第に震えていく。


「あたしはもう……生きられない……から。……その分……二人には……幸せになって……ほしいんだ……」


 ニノンの目からは、涙が溢れだし頬を伝っていく。


「ニノン!」


 俺はニノンを思わず抱きしめた。

 ニノンは俺にとっても愛しい妹だ。ニノンの泣く姿なんて見たくない。

 ……けれど救ってやることはできなかった。

 あとはできるだけそばにいてあげることしかできない。

 なんて無力な兄だろう。

 そして騎士はいったいなんなのだ。人々のためにあるのが役割なのに何もできないなんて……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る