第7話

「マリウス、何とかならないの?」


 私はマリウスに父とやりとりしたことを話した。


「どうしようもない……。すべては国王陛下のご命令だ」


 その返事は予想していた。

 王の決定を取り消すことは、私の父も、マリウスの父にも不可能なことはわかりきっていた。

 それでも、マリウスに聞いたのは行き場のない思いや感情を吐き出したかったからだ。


「でも、ニノンが人柱なんてひどいよね……。まだこの世界の何も知らないのに、神様のところに行けなんて」

「ああ、あまりにも早すぎる」


 マリウスの言葉は少ないが、怒りと悔しさは机の上に置かれた拳に出ていた。

 マリウスが感情を出すことはめったにないので、少し怖くも感じる。

 感情を抑えてこれだけのオーラがあるのだから、戦場のマリウスはきっと敵が恐怖して逃げ出すほどなんだと思う。


「花嫁の儀はいつやるの?」

「来週の土黄の日だ」

「土地神を祀る日だね……」


 モーリアは祭祀を司る家系。その日は私も長女として把握している。

 毎週、各地に住まう土地神を讃える土の日は回ってくるけれど、土黄の日は年に一度だけで、かつて土地神が人々を自然災害から救った日だったという。


「人柱なんて神様は喜んでくれるのかな……」


 神のご機嫌取りをする立場上、本当は言っちゃいけないこと。

 神の存在を否定する気はもちろんない。でも、言いたくて仕方なかった。


「神は人と違う。何をお考えか、想像もつかないな……。人の男たちが若い娘を欲するのは当然とされているが、その神が求めているとは思い難い」

「だよね……」


 神がどういう存在で、何を望んでいて、人は何をすればよいか。そういうことを幼いころから叩き込まれてきた。

 そういうものだと思って覚えてきたけど、神は変なものを望んでいるんだなと思ってた。人にはまったく理解できない。


「神様は人が木を切り、大地を壊しているから怒ってる。鎮めるには美しい娘を人柱として捧げる必要がある。……私が神だったらそんなのいらない。自分の気分のために誰を不幸にしようだなんて思わないよ」

「その通りだな……」


 マリウスは何か考え込んでいるようで、それからの会話はいつも以上に反応が薄かった。

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