第3話

 死亡者22名、負傷者53名、行方不明者4名。

 事故は想像以上に大きいものだった。

 ルーベの民も5名が亡くなった。

 私やマリウスも加わり、一週間にわたって救助活動は懸命に行われたけど、効果は上がらず、自分の力不足を嘆くばかりだった。

 砦造りの基本は、地面を掘って堀とし、その土で積み上げて壁にする。あとは砦によって様々だけど、石で覆って補強したり、石やレンガを積み上げて櫓や居住塔などの構造物を作ったりする。

 地形を変えてしまうような大工事をするわけだけど、結局自然の力には敵わないんだと思ってしまう。事故は起きてしまうし、そこから救い出す術もないんだ。

 亡くなった方全員の顔は知っていた。現場が近いこともあって、休みの日には村に戻ってきていて、数日前に元気な顔を見たばかりだった。

 救助が打ち切られ、私は心身共に疲れ切って、自室でぐったりしていると、屋敷の中を慌ただしく走る足音が聞こえた。

 足音で聞き分けられるわけじゃないけど、たぶんマリウスだ。

 私の住む屋敷は村の庁舎も兼ねた大きな建物で、村の政治に関わる人が毎日のように訪れる。

 着替えて部屋を出ると、やはりマリウスがいた。


「マリウス」

「メラニー、起きて大丈夫なのか? 昨日は倒れたと聞いたが」

「うん、全然問題ないわ。マリウスこそ平気なの? まったく休んでないでしょ?」

「人手が足りないんだ。休んでもいられない」

「でもマリウスまで倒れたら大変じゃない」


 代官が倒れたらそれこそ、マリウスに従い、事故後の対処に当たっている部下が動けなくなってしまう。

 それに私もマリウスが倒れるのは嫌だ……。


「気を付ける。だが心配はいらない。丈夫なのが数少ない取り柄だからな」


 マリウスは素朴な冗談を言って、ふっと笑う。

 本人はそれを面白いと思ってるようだけど、倒れられては困っちゃう。


「そういえば、ロベール様がいらっしゃったの?」

「ああ、事故に関して国王陛下から指示があったようだ。これから村役人を集めて会議をする」


 領主のロベールはマリウスの父親だけど、公には主従の関係なので、マリウスはロベール一行を出迎え、宿泊所の手配をしていたのを聞いていた。

 本来はこの屋敷に泊まっていただくことになってるけど、今はケガ人を収容しているためそういうわけにいかなかった。

 ロベールは「策士ロベール」とも言われるほどの名将で、多くの戦いで功績を上げ、何度も勲章を授かっている。


「マリウスも参加するの?」

「一応、これでも代官だからな」

「ふふっ、なんか似合わないね」


 マリウスはとても真面目で、騎士として体を鍛え上げていることから、前線で活躍する将というイメージがあるけど、あまり会議室で意見しているように感じはなかった。

 それは悪い意味じゃなくて、絶対に偉ぶったりしないから、偉い人と一緒に難しいことを議論している感じがしないってこと。

 それにここ一週間は土にまみれて救助作業に当たっていたというのもある。


「はは、俺もそう思う。戦場のほうが気楽でいいな」

「それはそれでどうかと思うけど」

「違いない。戦争がないに越したことはないからな」


 冗談で答えていいところだけど、マリウスは真面目に答える。

 マリウスは騎士であり、武人だけど、別に戦争で人を殺すのが好きわけじゃない。ただ「騎士の子と生まれたから、任務、責務として戦う」といつも言っている。


「それじゃそろそろ行く」

「うん、頑張って!」


 会議室にぞろぞろと村役人たちが入っていくのに、マリウスも続いた。

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