第2話
トカロンは、ルーベ北部の建設現場に物資を届ける任務に当たっていたらしい。
荷下ろしをしているとき、砦が崩れる瞬間を目撃したとか。
「雷が落ちたようなデカい音がしたんだ。気付けば辺りは土煙に包まれ、そこにあったはずのものがすべてなくなっていた」
石垣の一部が崩壊して、連鎖するように上や隣の土盛りが崩れていった。そこにいた人は埋もれてしまったり、石材の下敷きになってしまったりした。
「損害は?」
「けっこうなもんだ。現場は人が入り乱れて阿鼻叫喚。誰か指揮を執る者がいないと収拾がつかないだろう」
突然の大崩壊により、逃げる暇もなく、多くの人が生き埋めになってしまった。
客観的に言えばそういうことだけど、そんな冷静なままでいられない。
なぜなら建設現場には、よく知っている村民がたくさんいたからだ。
「…………。メラニー、怪我人を村に運ぶ。村長に受け入れの準備を整えさせてくれ」
「え……?」
マリウスに言われるが、突然のことで理解が追いつかず、私は戸惑うことしかできなかった。
「救護にいく! 俺たちでできるだけ多くの人を助けるんだ!」
マリウスが大声で叫び、私はようやく我に返る。
現実のことと思いたくないけど、受け止めないわけにはいかない。私たちにはその義務がある。
「うん、わかった! お父さんに伝えてくる!」
「ああ、任せたぞ。トカロン、手伝え。現場にいくぞ」
マリウスは村で一切休憩することなく、トカロンと一緒に来た道を戻っていった。
私も走って自分の家に帰る。
「お父さん!!」
私はドアをノックすることなく、執務室のドアを開ける。
「この部屋には入るなといっただろう」
父はこちらに目を向けることなく、何かの書類にペンを走らせていた。
「そんなこと言ってる場合じゃないの! 大変なのよ!!」
「ン……」
鬼気迫る声に事態を察してくれたようで、父は顔を上げる。
「造ってる砦で石垣が崩れて、たくさん怪我人が出てるそうなの! マリウスが運んでくるから、人を集めてベッドを用意して!」
「マリウス殿が? わかった、すぐに手配する」
父は立ち上がって、執務室を出て行こうとする。
けれど足を止めて言う。
「お前はここにいろ!」
私がこのあと何をするかなんてお見通しのようだった。
「嫌! 私も現場に行って助けてくる!」
「危険だ、やめろ!」
「人の命がかかってるのに放っておけないでしょ!」
「この……! ……くっ、勝手にしろ!」
父はあきらめて出ていってしまう。
私が言い出したら聞かないということはわかっていて、説得する時間があれば、怪我人を受け入れ準備を整えるほうが優先だと、村の指導者としての判断をしたんだ。
私も父に続いて執務室を出る。
村長が村長の仕事をするなら、その娘もその仕事をしなくちゃいけない。
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