第17話 夢のデート①

 ハァハァハァ……


 ま、間に合った〜久しぶりに全力疾走なんかしちまったよ。

 来小野木こおのぎさんはまだ来て無いか。

 良かった、待たせたら申し訳ないからな。

 今の時間は……待ち合わせの五分前か。

 ちょっと意外だな、来小野木さんの事だから五分前行動! とか言って、とっくに来ててもおかしく無さそうなもんだけど……

 まさかすっぽかされた?

 いやいや、そんな。来小野木さんに限ってそんな訳……

 お、落ち着け。まだ狼狽える様な時間じゃ無いぞ。

 何せまだ待ち合わせ時間にもなって無いからな!

 そうだ、女性は身だしなみに時間が掛かるって言うし、俺みたいに着のみ着のままって訳には行かないんだ。

 いくら完璧超人の来小野木さんだって、待ち合わせ時間に多少遅れる事くらい……

 

「お待たせしました」

「うひゃい!」

「どうしたんですか? そんな奇声をあげて」

「い、いえ別に何も……」


 あ……今日の来小野木さん眼鏡掛けてないのか。

 髪も……なんて言う髪型なのか知らないけどサイドで綺麗に編み込んであって、会社に居る時のただ邪魔にならない為に後ろで縛った物とは明らかに違う。

 服装も普段目にするスーツ姿じゃ無いからか、まるで別人みたいに見える。

 って言うかこれって……


「レム……」

「はい? 何でしょう」

「あ! いいいやすすすいません、馴れ馴れしい呼び方しちゃって」

「構いませんよ、ところでどうですか? 夢の中の姿に近付けてみたのですが。

 流石に髪色を変えたり、耳を伸ばすのは無理でしたが」


 うっ! そこで少し照れた様に笑うのは反則です!

 どうってそりゃ貴方、メッチャ可愛いに決まってるじゃ無いですか!!!


「えっと……と、とても良くお似合いです」

「ん〜〜? それだけですか?」

「はうっ!」


 ちちち近いです来小野木さん!

 よく見たらその服、結構胸元がお開きになってらっしゃるんですね!

 下から覗き込む様な格好されると、どうしてもそこに目が行ってしまうのですが!

 少し無防備過ぎやしませんか!?


「ととととてもお綺麗です!」

「そうですか、有難う御座います。年甲斐も無く頑張った甲斐が有りました」

「そ、そんな年甲斐も無くだなんて、まだお若いじゃ無いですか」

「そうですか? もう直ぐ三十路の癖にこんな若造りして、とか思っていませんか?」

「と、とんでも無いです。むしろバッチリ好みと言うか……あ、いや! 兎に角とてもお似合いなので、全く変じゃ無いです!」


 あっぶね、何口走ってんだ俺は。

 俺の好みとかどうでも良いんだよ!


「ふふ、そうですか。安心しました、秋月あきづきさんはもう少し小さな子の方が良いのかと思っていた所でした」

「ええ!? そ、それはどう言う意味ですか!」

「てっきりリリに乗り換えるのかと」

「なっ!」


 いやいやいや。

 あれはあくまで夢の中での話だし、それに乗り換えるも何もリリは実在の人物じゃ無く、夢の中に住人だし。

 そもそも乗り換えるって表現自体おかしいよね!?

 それじゃあまるで、俺と来小野木さんが付き合ってるみたいじゃ無いですか。

 そりゃ来小野木さんと付き合えたら、この世の春ってもんですよ?

 でもそんなの無理に決まってるじゃ無いですか。

 俺何かと来小野木さんとじゃ、全然釣り合い取れないですよ……

 うう、自分で言ってて悲しくなって来た。


「冗談ですからそんな顔しないで下さい。さあ、行きますよ」



 カランコロン♪


「今日は」

「いらっしゃいませ〜来小野木ちゃんおひさ〜」

「アラサー相手にちゃん付けはやめてって言ったでしょ」


 どんなオシャレな美容院に連れてかれるかと思ったけど、思ったより落ち着いた感じのお店だな。

 どっちかって言うと町の床屋さんって雰囲気で、これなら変に緊張せずに済みそうだ。


「そうだっけ? じゃあ昔みたいにレムレムって呼ぼうか?」

「冗談は辞めて下さい、私を幾つだと思ってるんですか。と言うか、学生時代もそんな風に呼ばれた事は有りません! そんな事より、今日は彼を……良い感じにして欲しいんです」


 お店の人来小野木さんの知り合いなのかな?

 まあ行き付けって言ってたから、顔見知りなのは間違い無いんだろうけど、なんて言うかもう少し親しい間柄っぽい?


「ふ〜ん……なに、彼氏?」

「違います! まだそう言うんじゃ有りません」

「へ〜まだ・・ね〜」


 待合室にマンガは……流石に無いか。

 ファッション雑誌っぽいのは置いてあるけど、これ読むのは流石に抵抗が有るな。

 まあ読んだところでって感じだし、俺にはこっちの方が異世界だよな〜


「秋月さん」

「あ、はい」

「お待たせ〜話し長くてゴメンね。この子ね学生時代の後輩なのよ」

「こ、後輩? 部活か何かですか?」

「そそ、演劇部。あれ、聞いてない?」

「は、初耳です」

「演劇部と言っても裏方が主でしたから、それに人に言いふらすような事でも無いので」

「またまた〜当時の花形だった私を差し置いて、メインヒロインに抜擢された事も有ったのよ、この子」

「それは偶々役柄に私のキャラが合ってたってだけで……って、それにあの時の先輩は主役だったじゃ無いですか」


 へー来小野木さん演劇部だったのか。

 ヒロインに選ばれたってのも、うん。

 来小野木さん程の美人なら、選ばれても全然おかしく無いよね。


「そりゃ元々私は男役が多かったからね」

「お、男役? 男性部員は居なかったんですか?」

「居ないも何も、私ら女子校だったからね。

 お陰で来小野木ちゃんは、全く男に免疫が無い子に育っちゃって」


 女子校か……

 サバサバしてカッコいい系の先輩と、美人系後輩の百合カップル……

 うん、良いね!

 

「人聞き悪い言い方しないで下さい。それに免疫が無いんじゃ無く、興味が無かったんです」

「そうみたいだね〜でも今はそうでも無いみたいだし、安心したわ」

「もう、そう言うの良いんで。兎に角彼の事お願いしますよ」

「任せといて! ちゃーんと良い感じにしたげるから」

「では私は適当に時間を潰して来ます、秋月さんまた後程」


 ああ〜行っちゃった……

 一人になった途端不安感で押し潰されそうになる。

 うっ! ちょっと吐きそう……


「さーて、やっちゃいましょうかね。こちらへどうぞ〜

 ってあんた大丈夫かい? 顔色悪いけど」

「だ、大丈夫です。お、お願いします」


 折角来小野木さんが連れて来てくれたんだ、ここで帰る訳には……


「首元失礼しますよ〜きつくないですか?

 あ、そうそう聞いてると思うけど、今回カットは新人に任せるって事で良かった?」


 は!? 聞いてないんですが!?


「い、いえ……あの聞いてないです……」

「ありゃ、来小野木ちゃんから聞いてない?

 ちゃんと伝えて置いてって言って置いたんだけどね〜」

「お、俺は別に構いませんが」

「そうかい? 何だか悪いね、その分お代はまけとくからさ!

 大丈夫! 新人だけど腕は私が保証するから」

「は、はあ……」


 まあ新人でも何でも別に構わないよ。ただ短く切るだけだし、元々千円カットで済ませようとしてた位なんだから、多少失敗されたって全然平気だし。


「じゃあ紹介するね、内の大物新人の柴崎しばざきちゃんね。柴崎ちゃーん、お客様宜しくー」

「はーい。初めまして、柴崎です。今日はカットの方担当させて頂きま……!」


 ん? 急に言葉に詰まっちまったけど、どうした?

 声からすると若い女の人っぽいけど……!

 え? そんな事って有る?

 まさか四人目も実在の人物なの!?


「ま、まさか……ロミ……なのか?」

「やっぱり……ライトさん?」


 おいおいマジかよ……どうなってんだこりゃ……

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現実ではコミュ障オタクでダメダメな俺でも夢の中なら最強です! ジョンブルジョン @mycroft1973

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