第16話 無情の夢③
ガンッ! ガキンッ!
もう何合打ち合ったか分からないな。
体力の限界、流石に息も上がって来たし少し休みたい。
「おら!」
ブオンッ! ガッ!
ルイは元気だな〜良くあんだけ連続で攻撃出来るもんだ。
俺はもう腕が上がらないぞ、って言うか夢の中でも疲れるってどう言う事だってばよ。
「ファイヤボルト!」
バシュッ! ボンッ!
レミも詠唱が終わった端から魔法を撃ち込んでくれてるけど、黒騎士(仮名)の着てる鎧が余程性能が良いのか、ハッキリ言って余り効いている気はしないんだよな。
最初こそ警戒して避けたり魔法で相殺してたけど、当たってもダメージにならないと分かった今じゃ、それすらしなくなりやがった。
「ライト! 休まず打て!」
「分かってるよ!」
休憩いつ?
いっそ目覚まさないかな〜目覚まし時計仕事しろ!
しかし俺とルイで休まず攻撃して、一つわかった事が有る。
異常に硬い防具と“
まあそれが十分脅威と言えば脅威なんだけど、最初に比べればある程度予想が付くんで対処出来る様になって来てる。
「そろそろ魔力が残り少ない、私も前に出る!」
そしてもう一つ分かったことは、こいつの“特技”を妨害する“特技”は対象が自分じゃ無いと効果は無いらしい。
つまり俺達が
なので……
「『
キキキキキンッ!
と、まあこんな感じでレムの“特技”もちゃんと発動する。
でもレムさんや、“特技”を発動させるのに叫ぶ必要はこれっぽっちも無いんですけど?
でもそれカッコ良いな、俺もやろ。
「ファイヤボルト!」
おお!? 攻撃から魔法を繋げたぞ? いつの間に魔法詠唱したんだ?
「あれはレミの得意技だ。『
「黒騎士みたいにか?」
「だな。まあ一発だけ、しかも短時間しか溜めとけねーから使い所は結構難しがな」
さすがレミ、その使い所の難しい“特技”を完璧に使いこなしてる。
やっぱ
レミの“特技”ともバッチリはまってるし。
あれ? レミの方が勇者っぽく無い?
俺の『
「どうした、そんなしけたツラして」
「なんでもねーよ、それよりルイ」
「ああ、そろそろか……」
ボチボチ決めないと、こっちの体力が先に尽きちまう。
何せ黒騎士の奴、能力値は低いくせに魔力と持久力だけはヤケに有り余ってるみたいだからな。
全くもう少し考えて能力値振れってんだ。
さてルイが言うには、ずっと姿の見えないリリが作戦の要って話しだけど、本当に大丈夫かよ。
チャンスは多分一回コッキリなんだ、頼むぞリリ。
「よし、決めるぞ!」
「おう! レム退がれ!」
俺とルイはタイミングを合わせると、まるで初っ端の攻撃の時みたく一気に間合いを詰めてからの左右同時攻撃……と、思わせて!
ルイはこれ見よがしに大きく振りかぶったクソデカ斧を、『
今までとは違う場所を狙った攻撃に虚をつかれただろ、流石にその攻撃は鎧じゃ受けきれないよな。
じゃあ剣で防ぐしか無い、しかも両手で構えてやっとって感じだ。
よし、狙い通り。黒騎士の動きが止まった!
ほんの一瞬だけど俺には十分。
行くぞ、『
突如ゆっくりと流れ出す時間、いや正確には加速された思考がそう見せているだけ。
俺はルイの背後へ隠れる様に入り込むと、突進の軌道を変えて黒騎士の右手側へ滑り込む。
減速された時間の中でしかもこの至近距離。
俺達の攻撃が功を奏していたのがはっきり見える。
何せ執拗に、そして正確にそこばかり攻め立てたからな!
「そこだ!」
俺の突き出した剣の先は、一番深く傷付いたそこ。
最初にルイが与えた籠手の傷に、まるで吸い込まれる様に突き立てられた、そして……
バカン!
よし、やってやったぜ!
どんなに硬くたって同じ所に何度も喰らってりゃ、そりゃ脆くもなるだろ!
ざまーみさらせ。
後は……
「リリ、頼んだ!」
スパンッ!
まるで俺の声に応えるかの様に、黒騎士の背後から不意に現れたリリ。
そして宙を舞う奴の右腕。
リリは奴の影にでも潜んでいたのか?
いや、普通そんな事を出来る奴はいない、ましてリリは“特技”を持たないのだから。
ならば突然幻影の様に現れ、奴の腕を一刀の元切り落として見せたのは一体……
何の事は無い、リリはずっと奴の後ろに居たのだ。
気配を無にし、まるで空気の様に奴に纏わり付き、その瞬間を虎視眈々と狙って居たに過ぎない。
これぞ暗殺者としての妙技、暗殺術なので有る……
っと、こんな感じか?
まだ『脳加速』の時間が少し余ってたから、ちょいと洒落た文章っぽく解説してみたけど、日本語の使い方合ってるかな〜?
まあ、あくまでそれっぽくだし、誰かが聞いてるでも無いから何でも良いんだけどね。
あ〜うん、時間切れっぽいね。
この“特技”使うと意識失うってのがな〜どんだけ脳に負担掛けてるんだよって話だよな〜……
※
「うっ……あ〜目が覚め……てねえ!」
「あ! みんな、ライト起きたよ! ライト大丈夫? 痛いとこ無い?」
「おうライト、具合はどうだ?
つーか使う度に気を失うとか、めんどくせー“特技”だよな」
「鍛え方が足りないだけなんじゃ無いの?」
おうおう、お前ら好き勝手言いやがって。
俺の心のオアシスはリリだけだな。
「リリ、俺に一杯甘えて良いぞ。そんで今晩は一緒に寝ような」
「ホント! やったー」
「ちょ! なんて事言ってるのよ、このケダモノ! 変態!」
「なんだ、レムからリリに乗り換えるのか?」
「うっせーよ、ちったあリリを見習って心配しろ!
後、乗り換えるもなにも、乗った事ねーよ!」
「乗る? ライト、リリに乗るの? 潰れちゃわないかな」
「ん〜となリリ、乗るって言うのはな……」
「「言わせねーよ(無いわよ)!」」
全く賑やかだな。でも何だかんだ作戦は上手くいって、戦いは終わったみたいで良かったよ。
相手が見た目に反してヘボかったお陰で、誰も怪我とかしてないしな。
「あの後、あいつはどうなったんだ?」
「飛んで逃げ帰ったぜ」
「魔法か?」
「空を飛ぶ魔法も有るけど、”特技“で持ってる人も見た事有るわね」
「そっか〜そうなると判断難しいな。
後二つ、謎の”特技“を持ってるって思っておいた方が良さそうだ」
「なんだかまた遣り合うみたいな口振りだな」
「ん〜何と無くそんな気が、それにこう言うのって所謂お約束だろ? 『主人公達を付け狙う魔王軍幹部と因縁の対決』みたいな」
「アレを魔王軍だと?」
「違うの?」
「さーな、特に名乗りもしやがらなかったしな。まあ腕を切り落とされたんだから、復讐位はしには来るかもしれんが。ところで戦利品はどうする?」
「戦利品? そんなもん有るの?」
「黒騎士が持ってた剣だ、腕と一緒に落としてったぜ」
「持ってってもな〜俺は使えないぞ?」
見るからに重そうな剣だったしな、俺の非力な腕じゃ構える事も出来なさそうだよ。
ルイならいけるだろうけど、もっとエグいの持ってるしいらんだろ。
「使わなくても売ればそれなりの金額にはなるぞ、それに戦利品は倒した俺達に取得する権利が有るから、貰っとかなきゃ損するだけだぜ?」
「あ、売れるのね。じゃあ折角だから貰っとくか『
そういや今軽い気持ちで入れとく何て言っちゃったけど、取り出した事有っても入れた事無いんだよな。
まあ何事も経験だしやってみるか、ダメだったらルイに持って行かせりゃ良いし。
先ずは『次元収納』を開いて……よしよしここまでは順調。
じゃあ剣をもっ……っグヌヌ、思ったよりずっと重いなこりゃ。
「おーい、ルイ〜」
「ったく、しょうがねーなー。やっぱやろうぜ筋トレ、ほらよ」
「気が向いたらな」
お〜剣が消えるみたいに黒い亀裂に入ってく、こう言う感じなのか〜
まあ単純に出す時の反対ってだけなんだけど、こうして目の当たりにするとやっぱ不思議な感じだよな。
「ところでロミはどうしてる?」
「あっちで『勇敢な人達』を弔ってるぜ」
ああ……黒騎士に挑んだ他の護衛達ね。
黒騎士は思った程強かった訳じゃ無かったけど、それは俺達と比べてってだけで、彼らには十分脅威だったんだな。
夢の中の登場人物とは言え、目の前で死なれるとやっぱ後味悪いよ。
ま、彼らも冒険者なんて言う根無草やってんだから、そう言う覚悟は出来てるんだろうけどさ。
「ライトさーん」
「終わったかロミ、ご苦労さん」
「いえ、亡くなった方の魂を正しく導くのが僕の役目ですから」
そういやロミは僧侶だったな、『女神の
戦闘中も怪我人の治療に当たってたんだっけか。
隊商の方にも怪我人は出たみたいだけど、幸い人死が出る様な大きな被害は出て無い様子だし、仕事としては十分役目を果たしたって感じだな。
まだ終わってないけど。
「ライト、ロミ。出発だとよ」
「あいよ、行こうぜロミ」
「はい!」
…………
……
…
「ん……あ……」
今度こそ起きたか……今回は随分キリのいい所までの夢だったな……
俺も随分勇者らしく出来たんじゃない?
「って、浸ってる場合じゃ無い! サッサと支度して出掛けないとだ!」
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