第15話 無情の夢②

「おいおい、“特技スキル”六個って。冗談でも笑えねーぞ」

「マジだよ、内容までは見えなかったけど、確かに六個分の枠が有った」

「『識別アイデンティファイ』でも見えなかったって事?」

「ああ、“特技”どころか、名前も性別も何もかもが見えなかった」

「それって、もしかして……」

「ああ、多分……おっとやべえ!」


 うおっとっと、悠長にお喋りし過ぎたか。

 ルイの言葉で咄嗟に避けれたけど、危なく魔法をくらう所だったぜ。

 しかしあの黒騎士(仮名)め、毎度毎度ノータイムで魔法バカスカ撃ちやがって、どんなカラクリだよ。


「ライト、こっちからも行くぞ!」

「お、おう!」

「援護する!」


 とは言ったもののマトモな戦闘はゴブリン戦以来だし、しかもあの時は途中で気を失った、つーか起きたからな。

 そう考えりゃ今回が初戦闘みたいなもんだぞ、俺に出来るのか?

 うだうだ考えても仕方が無い、取り敢えず武器だ『次元収納ディメンジョンロッカー』!

 良かった、ちゃんと出せた。これで出せなきゃ土下座して帰って貰うとこだったな。


「ライト右から行け!」

「おうよ!」

「出し惜しみ無しで、ファイヤーボルト!」


 俺とルイ、左右からの同時攻撃に加えレミの魔法攻撃だ。

 喰らいやがれ!


「……ブラッドレイ」


 ちっ! チャージを使い切る勢いで撃ち出したレミの魔法を、あっさり相殺しやがった。だがこっちは避けられないだろ!


 ガッ!

 ガギンッ!


「なに!」

「マジかよ!」


 おいおいどうなってるんだよ。俺の剣だけならまだしも、ルイのクソデカ斧まで籠手で受け止めやがったぞ!

 しかも何だ、この手応えの無さは。


「やばい! 後ろへ避けろ!」

「くっ!」


 うわ、あぶね!

 もう少しで首を飛ばされるとこだった。

 鎧と同じ黒い刀身の剣か、大きさから言えば両手剣ツーハンデッドソードだけど、あいつ今片手で振ったぞ。

 もしかしてルイと同じ“特技”か?

 

「どうするよルイ、魔法も剣も効かないぞ」

「コイツはちと厳しいな、だがよく見ろ。さっき攻撃を受け止めた所」

「ん? ありゃ……キズか?」


 ルイに言われた場所をよく見てみれば、俺達の攻撃を受け止めた籠手に僅かだけど傷が付いてるな。

 

「あんなの良く見えたな」

「おう! 視力は両方とも2.0だ!」

「流石ゴリラ」

「ゴリラ関係ねーだろ」

「あんたらいつまで戯れてるのよ、それより援軍よ」


 お! あれは別の護衛達だな。

 騒ぎを聞き付けて、やっとこさコッチに来てくれたか。

 これで何とか……なるほど甘くは無いか。

『識別』した限りレベルは低いし、“特技”持ちも居ない。

 こりゃ大した戦力にはならなそうだ。


「ちったあ時間が稼げるかな? あいつの“特技”幾つか検討が付いた」

「マジで!?」

「先ずは衝撃を無くす“特技”これは最初に落ちて来た時も使ってたんだろう、俺達の攻撃を鎧だけで受け止めたとは考えにくい、いくら斬撃を受け止めたとしても衝撃は伝わるからな」


 防弾チョッキの理屈だな、弾は貫通しないけど衝撃は伝わるから、痛いもんは痛いって聞くからな。

 なのにあいつは涼しい顔してやがる。

 まあ顔は見えないけど。


「あいつの防具がクソ硬いってのも事実だが、傷が付くならぶっ壊す事も出来る筈だ」

「そうね、魔法で強化されてる可能性も有るけど、丈夫なだけで壊せない訳じゃ無さそうね」

「そう言う魔法あんの?」

「物品に対して永続的効果を付与する呪文は存在するわ、とても高度な魔法なので使用者は限定されるけど」

「レミは使えるのか?」

「私は専門外ね」


 そりゃそうか、使えるならとっくに使ってるよな。

 鎧を壊す事が出来れば、いくら衝撃を消せても肉体に直接ダメージを与えられる……か?


「次が“特技”を阻害か無効化する“特技”だな、ライトの『識別』で見えなかったのがそのせいだ、最後に……」

「魔法を高速で発動させる”特技“ね」

「まあ、そんなところだろうな」


 あれ? ルイなら気が付いてるかと思ったけど。

 日常的に使ってる事には逆に気付きにくいのかな?


「あ、俺もう一つ分かったわ。さっきあいつ両手剣を片手で振ったろ? 多分ルイと同じ“特技”じゃ無いかな?」

「……強化筋力フルストレングスか、確かにあり得るな」

「あくまでも予想だけどな。しかしこれで四つか……」


 これって割と絶望的な状況じゃ無い?

 ”特技’が分かった所で対処のしようが無いし、更に二つまだ予想も付かない“特技”を持ってるんだぞ?

 無理ゲーだよこんなん。

 それともこれって負けイベントか?


「レミ、何が残ってる?」

魔法の杖マジックワンドはさっきのでチャージ切れ、今役に立ちそうなので残ってるのは、シールドとエンチャントウェポンの護符が二枚ずつってところね」


 おっと? また俺の知らないアイテムが出て来たぞ?

 そういや黒騎士(仮名)の最初の一撃を受け止める時に使ってた様な……


「護符って何だ?」

「護符って言うのは、使い捨ての魔法発動体よ。一回だけ魔法を使用者の能力や魔力に関係無く発動させる事が出来るけど、使うと消えて無くなるわ」

「超便利じゃん、もっと攻撃魔法とか色々用意しときゃ良かったのに」

「一般的に流通してる護符に、直接攻撃魔法は含まれていないのよ、大体が防御魔法か攻撃力の底上げとかに限定されるわ」

「そうなのか、まあ簡単に攻撃魔法撃てたら危ないしな」

「それに決して安い物じゃ無いから、数を揃えるのも難しいのよね。第一護符にお金を使うなら、杖のチャージ数を増やした方がまだ実用的よ」


 何とも心許無いな。

 あ〜でも、レミはアイテムに頼らなくても魔法使えるんだよな?

 時間は掛かるらしいけど。


「レミ、自前の魔法も使えるんだろ?」

「時間を稼いでくれるなら確かに使えるけど……」

「因みにどれ位稼げば良いんだ?」

「最短で五分」

「それで何が発動する?」

「ファイヤボルトを一発だけ」


 それって魔法の杖にチャージしてる魔法だよな。

 さっきの攻撃でチャージ分全力ブッパして、アッサリ消されて無かったっけ?

 それを一発だけ撃てた所でな〜


「時間を稼ぐにしても人手が足りねーな」

「そういやロミとリリは?」

「ロミなら向こうで隊商メンバーの治療にあたってる。馬車が横転する程の衝撃よ、そりゃ怪我位するわ。勿論“特技”は極力使わない様に言ってあるわよ」


 ロミの“特技”『女神の御子みこ』が有れば、戦闘も随分楽になりそうなもんだが、他に怪我人が居るなら仕方ないか。

 それにロミが真っ先にやられたら元も子もない無いし、下手に戦闘に参加させるより、後方で待機して貰った方が安全だな。


「リリは? まさかまだ寝てるのか!?」

「起こそうとした矢先に攻撃されたからな、そういやどこ行った?」


 ぬ〜リリは貴重な戦力なんだがな〜

 この騒ぎの中寝てるって事も無いだろうけど、連携も取れないんじゃアイツに勝てないぞ。


「さて……どうやら時間切れ、話し合いディスカッションはここまでみたいだな」

「うげ、これはまた……」


 レベルから言って勝てるとは思って無かったけど……こりゃ戦闘じゃ無く一方的な殺戮だな。

 そこら中に護衛だったモノの部品が飛び散ってるよ。

 俺グロいのはあんまり得意じゃ無いんだけどな〜


「ルイ、何か策は?」

「無くは無いが、上手くハマるかどうかの保証は無いな」

「どのみちやるしか無いでしょ」

「ほんじゃまあ、一丁やりますかね……」

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