第14話 無情の夢①

 ポコン!


『では明日九時に、遅れない様気を付けて下さい』

『はい。ではお休みなさい』


 フゥ。今日もリア充の様なやり取りをしちまったぜ。

 いよいよ明日は来小野木こおのぎさんとデート、いやあくまで美容院に行くだけだ。

 昼食も食べに行くけど、それはお礼だからな!

 デートだなんて、そんな浮ついたもんじゃ無いぞ俺。

 しかし女の人と二人でお出掛けか〜

 デートじゃ無いと分かっていても、やっぱソワソワしちゃうよね。

 だって男の子だもの。

 あ! そういや何着て行こう。

 俺まともな他所行き何か持ってたっけか?

 え〜と何か無いか……

 クソ! こんな事なら通販で買っときゃ良かった。

 おっと、勿論『服を買いに行く服が無い』から、直接買いに行くなんてのは無理ってもんだぜ?

 そんな事言われなくって分かるだろ?

 って誰に言ってんだよ俺。

 やべ〜マジで着て行く物無いぞ……

 ……まあ良いか、それこそ気合い入れた格好してっても『何勘違いしてんだ?』とか思われるだけだし。

 うん、デートじゃ無いんだデートじゃ、もう普段着で良いや。

 うお! 色々やってたらもうこんな時間。

 せめて待ち合わせには遅れない様にしないとな。

 サッサと寝よ。



 ガタゴトガタゴト……


「う……、ん?」


 はいはい、毎度お馴染み夢の中ですね。

 流石の俺も五回目ともなれば慌てません。

 そりゃもう慣れたもんですから。

 さて、今の状況は……?

 宿のそれなりに寝心地の良いベッドでは無く、地べたに布を敷いただけの野宿って訳でもなさそうだな。

 この不規則に揺れる感じは乗り物の中か?

 木製の簡素な腰掛けに、周りを取り囲む様な布製の屋根か。

 これはアレですね、馬車ってヤツですね?

 起きてるのは俺とルイ、それにロミか。

 レミとリリはお互いもたれ掛かる様にして寝てる……

 なかなか尊いてーてー感じだね、そんな二人には惜しみない良いね! を贈ろう。

 起きてるロミも物珍しいのかじっと外の景色を眺めてるけど、小さな身体のロミがそうしてると、まるで子供が電車の窓から外を眺めてるみたいだ。

 それはそれで良いね!

 よしよし大体の状況は把握した。

 じゃあ次にやる事と言えば……


「おはよう解説係ルイ、今の状況を説明してくれ」

「おう、起きたと思ったら随分な言い草だな……まあ良いけどよ」


 ホウホウ成程、隊商の護衛か。

 ギルドの仕事って訳ね。


「丁度進む方向に向かう隊商が有ってな、路銀稼ぎと足の確保を兼ねて受けたって訳だ。今は丁度国境の峡谷だな」


 ほえ〜すげー眺めだ、両脇が切り立った崖になってるのか。

 現実世界じゃなかなかお目にかかれないよな〜

 ……崖崩れとか無いよね?


「路銀稼ぎはともかく、足だったら馬車でも馬でも買えば良いんじゃ無いか?」


 何だよその、ヤレヤレ分かってねーなーみたいなの。


「馬車や馬がいくらすると思ってんだ? それに世話もしなきゃなんねーし、それだってタダじゃねーんだぞ?」

「ああ、そっか。つまり現実の車みたいなもんか」

「そう言うこった」

 

 夢の世界でまで金の心配とは、夢がねーなー

 夢なんだからもっとこう、パーっと行きたいもんだよな。

 リアルに寄せ過ぎると、糞ゲー臭がして来るぞ?


「ところで護衛って俺達だけなのか?」

「この馬車に乗ってるのはな、他の護衛も当然居るがそいつらはずっと前だ。前後で挟む様にして護ってるからよ、俺達は一番後ろだ」


 所謂しんがりってやつね。

 それで幌の隙間から見える後ろの風景に、他の馬車が見えなかったのか。

 じゃあロミは景色を眺めてたんじゃ無くて、後方警戒。つまりちゃんと仕事をしてたのか。

 小さな子供みたいとか思ってゴメン!


「ロミご苦労さん、変わろうか?」

「あっ! 勇者さ……いえライトさん。ボクは大丈夫なので休んでて下さい」


 そんな良い笑顔で元気いっぱいに返されたら、無理に代わるのもちとアレだよな。

 後、勇者様呼びはなかなか抜けないのな。よっぽどインパクトが有ったのか、スッカリ刷り込まれちまったみたいだ。


「疲れたら言うんだぞ、俺達は仲間なんだから」

「了解です!」


 うんうん、今のはなかなかリーダーっぽいセリフだったんじゃ無いかな?

 普段こう言う事言うのはルイの仕事だからな、俺だってそろそろ自覚ってのが出て来たんだぜ?


「言う様になったじゃ無いか『勇者様』」

「流石に慣れて来たさ、それに今のは勇者としてじゃ無く、リーダーとして仲間に言ったんだよ」

「はっはっは、こりゃたまげた。まあ自信を持つ事は悪い事じゃ無い、どうせなら現実世界でもその位自信持ってみたらどうだ?」

「それが出来れば苦労しないよ」


 それが出来る位なら、俺ももう少しマシな人生送ってたかも知れないな。

 でもまあ無理なもんは無理、夢の中で味わえた事をせいぜい感謝しとくさ。


「ライトさん、ルイさん」

「ん? どうしたロミ」


 そういやロミの前で、現実世界だのなんだの話してて平気だったのか?

 まあ夢の世界の住人に聞かれたところで、何がある訳でも無いか。


「後ろから何か来ます」

「何か? 何かって……ルイ!」

「俺の『探知能力エネミーサーチ』には何も引っかかって無いぞ?」

「来ます!」


 ……ズドン!!!


 な、何だ!? ロミが叫んだと思ったら、馬車の直ぐ後ろに何か落ちて来たぞ! ぬわ!

 つつ、何だどうなった? って衝撃で馬車がひっくり返ったのか!

 なんつー勢いで落ちて来たんだよ、隕石か何かか?

 

「みんな無事か!?」

「お、おう」

「イタタ、一体なんなのよ。やっと寝れたと思ったのに!」


 大丈夫だレミ、夢見てるって事はちゃんと寝てるって事だ。


「ぼ、ボクも何とか平気です」

「リリは? おいリリ!」


 狭い馬車の中だし、そりゃ直ぐ見つかるよね。

 リリは馬車の奥で逆さまになって気を失って……

 いやあれ寝てるな、なんつー豪胆な。


「ルイ、リリを起こしてくれ。ロミは怪我人が居ないか確認を、でもなるべく“特技スキル“は使うなよ」

「了解です。 ! ライトさん、あ、あれを!」


 何だ? ロミが指差した方って何かが落ちて来た所だよな?

 舞い上がった土埃が晴れてきたけど……ん!?

 なんだ? 人? え?

 おいおいマジかよ。土埃が晴れたと思ったら、爆心地の真ん中に誰かいやがる。

 黒い……全身鎧フルプレート? を着込んだ、ありゃ人間だよな? ロボとかじゃ無いよな?

 じゃあ人間があの勢いで落ちて来たってのか?

 しかもそいつ、事もあろうかヒーロー着地を決めてるじゃ無いか!

 おい、どこの主人公だよ!?

 あ、立ち上がった。そんで手をこっちに差し出して……


「みんな危ない! 私の後ろに!」

「ヘルライトニング……」

「シールド!」


 バヂン!


「ぐっ! 何だ、魔法?」

「攻撃魔法よ、しかも相手はアイテムを何も使って居なかったわ」


 それってどう言う事だ? 魔法使うにはクソ長い呪文やら、何やらが必要だったよな。

 それを省略するために、魔法の杖マジックワンドへ魔法をチャージしとくんだろ?

 それを使わないで魔法撃つとか、どんなチートだよ!

 チート……“特技”か!

 だったら化けの皮を剥いでやるぜ!


識別アイデンティファイ』!


『名前:*]“|>*[”.!,・m

 種族:!>%}!‘・あljb

 性別:・cすいjvるqjっkl

 年齢:!,!\“

 職業:・あvfjcbsqきっj

 レベル:・ん>;

 特技:・”]>||]%“,!’ ・!,[#?!#!\” ・!_=‘!|“[・fk ・bsjxjっkjgっhj ・^_^あひうっhk「「  ・}#€!|_*”“n』


 は? 何だこりゃ、文字化け?

 レムやロミを見た時みたいに、知られたく無い所だけ見えないとかじゃ無い。

 何一つ見えない!

 しかもこれ、俺の思い違いじゃ無いとしたら……


「どうしたライト! 惚けてる場合じゃ無いぞ、さっさと戦う準備をしろ!」

「あいつ……」

「あ?」

「あいつ”特技“を六個持ってやがる……」

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