後悔と雨燦々

第1話 進学

「思えば後悔は二つくらいしかないな」

 君にもっとちゃんと愛を伝えられなかったこと。

 君と行こうと言っていたあの南の島にもう行けそうにないこと。

 ちゃんと君に向き合うことができなかったこと。

「あ、これで三つ目か。まぁ、いいか」

 彼女の墓の前で俺は苦笑しながらそう言った。

 その時、俺はきっと泣いていたと思う。

 彼女とは家も隣同士で、保育園の頃からの幼馴染だった。

 そして、小学校を卒業しても同じ学区内の学校に進学した。

 進学先こそ違うものの、電車で一本の距離だし、いつでも会えた。

「高校は同じところに行こう」

 彼女はニコリと笑いながら俺に言った。

 「え?  なんで?  同じところに行っても、多分クラスは別々だよ」

「良いの。それでも」

 彼女は受験ノートにペンを走らせながら言った。

「そうだね」

 俺はそう言うと、再び参考書に視線を向けた。

「あ、そういえば……今日って、何月何日?」


「それ……昨日も聞いてきたよ?  どうしたの?」

「え!? あ、いやなんでもないっ!」

 俺は参考書を閉じて、大きく伸びをしながら立ち上がった。

 そして、本棚から漫画の単行本を手に取り、ベッドへと寝転ぶ。

「ちょっと!  なんでベッドで漫画なんて読み始めるのよ!?」

「もう……俺、寝る」

「なっ!?  もうっ! ちょっとぉ!」

 俺は、彼女の文句を聞き流しながら、漫画をパラパラと読み始じめた。

勇者者の物語。レベルが0の勇者が村から追放され、それでも世界を救うことを諦めなかった話、魔王を倒す頃にはレベル100までになっていて、って俺もこんな風になれたらどれだけいいだろうか。

なんでもすぐに諦めてしまう性格だから、大切なものも傷つけてしまうような性格だから。

漫画を読みながらそんなことを考えていた。

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後悔と雨燦々 @Kakitsu_0906_

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