第33話 少女
「助け……て!誰、か……!」
肩で息をしながら全力で走る少女。
真っ暗な森の中で、目立つ白銀の髪をなびかせ、走りにくいドレスの裾を持ち上げて、とにかく何かから逃げるように宛もなくただ走る。
「――ふぐっ」
後ろを向いて走っていた拍子に木の根に躓いた少女は、間抜けな声をあげながら顔から倒れてしまう。
泣き出してしまうのではないかと思うぐらい目元には涙が溜まり、綺麗だったのだろう白いドレスは泥まみれ。
涙をグッとこらえた少女は立ち上がり、コケた時についた傷を治癒魔法で回復しながら、体力が続く限りとにかく走り続ける。
「ここ……は、どこなのよ……!!」
脹脛が痛くなり、膝に手をついて呼吸を整えようとする少女は怒り混じりにそんな言葉を吐く。
隣の王国に行く時に複数人の男や女に騎士や冒険者の人はやられ、袋に入れられていつの間にか連れてこられた森。少女に襲われる宛はなく、強いて言えば王女なことぐらいしか宛がない少女は周りを見渡し、誰もいないことを確認してその場に座り込む。
「拐われたのは分かった……けど、私の周りに誰もいなかったのはおかしい」
なぜ少女がこうして逃げ出せたのか、なぜ誰も追ってくる気配がないのか、不思議に思うが、なにも分からず終い。
王女なら王国に金を要求すれば相当のお金をもらえるはずだと考える少女。だがそうしなかった犯人の意図が分からない。
「ただ拐いたかったから私をさらっただけ……?流石にないよね。損することと利益が割に合わないし」
リスクとリターンが見合わないと言いたいのだろう。夜の寒さから身を守るように身を丸くする少女は、そっと目を閉じ――
「――ガルルルル……」
濁点が付きそうなほど低い狼らしき魔物の唸り。思わず眠ってしまいそうなところを起こされた、という点では非常にありがたかったかもしれないが、相手が相手だ。
背後から聞こえる唸りに体をゆっくりと起き上がらせた少女は思わず叫ばないよう口を抑え、息を潜めながらゆっくりとその場を離れようとする。
だが、動くものに反応した魔物は少女に対して吠え、かぶりつこうと飛び込む。が、間一髪で避けた少女はドレスの裾を手で持ち、また全力で走り出す。これ以上魔物を引き寄せないように声は潜めながら、相手を威嚇しないように魔法も使わないように、とにかく逃げ続ける。
きっと光があるであろう方向に、地面に足跡がないかを確認しながら、夜には目立つ白銀の髪をなびかせて所々木でフェイントを掛けながら。
(誰か助けて!できればかっこいい王子様!おとぎ話に出てくるようなかっこいい王子様助けて!)
心の中は案外余裕そうな少女は魔物からではなく、まるで自分の願いに向かって走り続けるのだった。
小説の書きすぎで死んだ男。作家人生で培った知識と想像力と共に異世界に行く。 せにな @senina
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