終話 月渡る見ゆ
「あたしが本当に、
金弓は、ぴたっと手を止めて、
「どうもできない。手の届かないところに行ってしまったなら……。いくらオレが名家の生まれといっても、できる事に限界はある。
だから、なるべく考えないようにして、祈ってた。
と言った。
(そんなに待っててくれたなんて……。)
なんだろう。胸が、詰まるように感じる。
金弓のくりっとした目に、悲しさと、誠実な光が見える。
「なんで、そんなにあたしを……?」
「綺麗だったから。」
金弓が照れたように言う。
「?」
それは嬉しいが、ちょっと理由としては弱い気がする。
(もっと話して。)
と、微笑みながら、目で訴える。
「ええとね、川原で戦ってるのが、一人だけ、動きが綺麗で、身体が、髪が、明るく光ってるように見えたんだよ。そんなバカな? って思って、それで、橋から身を乗り出してしまった。
近くで
後にも先にも、そんなの、
「へえ? ふふふ、おかしいの。
あたし、強いから。
その
知ってますよね?
あたし、
「ああそう!
金弓が愛おしそうに、
「え?」
「
「まあっ! ふふふ。」
(
宝珠……。
あたしが宝珠だなんて。)
憎からず!
「えへへ。」
と金弓が楽しそうに笑い、
「蒼天龍遨放
白雲涌口中
青山遥揺曳
掌中珠耀然
(
とカッコいい漢詩を
正直、何を言ってるか分からなかった。
でも良い! なんかカッコいいもん!
(
憎からず! 憎からず!
(よろしい、ご
ちゅ、唇が音をたてて、恥ずかしくなった。
唇を離し、にこっ、と微笑みかけてあげると、金弓はぼうっとした顔で、
「
と
あまりしげしげと
「今でも、あたし、光ってみえるの?」
と
「普通にしてると普通……、ええと、光ってないよ。でも、時々、ぱあって光ってみえるんだ。
今も……、全身光ってるみたい。細い首も、豊かな胸も、まろやかな腹も、すごく……綺麗だ。」
金弓は、うっとりと言って、うっとりとした口づけをあちこちに落とす。ふんわりとあちこちを撫でる。
月が、
夜が、深くなる。
金弓が深く差し入れたので、
あう。
と
……天に昇る。
まあるい月が見える。
藍色の夜空に浮かぶ
はあ、はあ、金弓の息遣いが速くなる。
ああ、……綺麗。
金弓の精を嬉しく受け止めてから、二人、抱き合うなかで、
「金弓さま。お願いがあります。
あたしを呼ぶ時は、必ず、愛する妻、恋しい
と金弓の胸でささやいたら、
「うん、わかった! 初めてのお願いだね……。わかったよ! 恋しい
と力強く金弓は頷いた。
その時は、
まさかその約束を、金弓が、子供が生まれ、孫が生まれても、守り続け、末永く愛する妻と呼び続けてくれるようになるとは。
そしてさらに。
幾夜も過ごすうち、
「わあ───?! そんなになの───? ああ、そんなところも?! 愛する
と言わせる事になろうとは。
さらには。
「大丈夫かな? 泣き止まないよ? お腹すいたかな? ほら、この、
泣く
「うぅ……。」
くりっ、と無邪気な目で金弓が
「う?」
「
その時は知る由もなかったのである……。
───完───
↓挿し絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16817330665804970447
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