第四話 佐味君金弓
「もう、親同士で
そう。承知の事。
ゆえに、今朝、母刀自の手によって、
女官として務めはじめ、しばらくしてから……、まだ十五歳の頃、母刀自から
おまえの将来の婚姻相手が決まった、
その時は、
(ふうん。そっかあ。)
そうとしか思わなかった。
女官は皆、
それが
その二つの道を歩めなかった上級女官は、皆、二十一歳になり次第、女官を
まだ女官で仕えているうちに、将来の婚姻相手を決めておくのは、生家に戻ったら、すぐに婚姻できるようにする為だ。
十五歳になったら女官になること。
二十一歳になったら、すぐに親の定めに従い、婚姻すること。
己の道を歩くのは己の足。
道を間違わず歩きなさい。
障害物は
それが母刀自の教えだ。
横に並んだ
「そうだけど、そういう事じゃない。
金弓は、
「恋うてるんだ。
「そんな……、生きていけないだなんて。」
「本当だ。この五年と四ヶ月、オレは、雪に溶けてしまうような思いだったんだ。
恋とは……苦しくて。」
金弓は眉をゆがめ、静かにそう言い、目を伏せた。
「嬉しいです。」
「え?」
「そんなに思ってくれて、嬉しいです。あたしのこと、大事にしてくれますか?」
「うん! 大事にする!」
金弓は幸せそうに、ふくふくとした笑顔を浮かべた。
九歳の頃浮かべていた、愛嬌のある笑顔、そのままだったので、
(まさか、あの九歳の
でも、悪くはないや。
一途にあたしを想ってくれてるなら。
きちんと、綺麗とか、大事にするって、言葉で言ってくれる
それに、ぽっちゃりして、年下の
とんとんと話は進み、
* * *
さ
美しい夜が
万葉集
* * *
くあぁぁぁん……、くあぁぁぁん……。
「は、初めてなんですね……?」
と、つい、言ってしまった。
もちろん
「十六歳なんだ! おかしいことはないだろう!
嫌なら……、今日は帰る。このまま、
と震えながら本当に衣を着始めた。
「待って! 違います……!」
(えー!)
「恋うた
そんなにおかしいことか?!
皆、好き勝手言う。
いくら女官が美女でも、年増じゃあいけない、若い
挙げ句、女官は今頃、御手付きになってるかもしれませんなあ、なんて、同情するように言う……!」
(あ……!)
五年。
(どんなに辛かったろう。
それなのに、あたしは、なんて酷い言葉を口にしてしまったのだろう……。)
「
金弓は、
「苦しい時、オレは想像したんだ。
もし
オレは九歳で
まだ
オレはいつでも、
オレが声変わりしたら、
十六歳までは、こっそり、人に隠れて口づけだけして、ずっと一緒にいて、十六歳になったら……。」
そこで、ぽろぽろ、金弓から沢山の涙がこぼれた。
「十六歳になったら?」
「……十六歳になったら、オレは、お待たせって言って、
「待ってた!」
実際は違う。
でも……、良いではないか。
本当に、
……ないかも。
いや、あるか、ないかではない。
自分の気持ちが大事だ。
ポロポロ泣く金弓に、言ってあげたいのだ。
待ってた、と。
だから、言う。
「待ってた。……恋うてる。」
(おおっと! 口が滑った。奉仕が過ぎる!)
金弓は、はっ、と息を呑み、真っ赤な顔で、
「
と勢い良く言った。
オレの
(おおっと! 早すぎない? それ?)
「オ、オ、オレの
金弓は情けない顔になり、パチパチ
金弓の不安でたまらない表情を見て、
(良いですよ。)
柔らかく笑い、
「あたしの
そう、呼んだ。
「わあん!」
金弓は大泣きして抱きついてきた。
ひとしきり泣いたあと、金弓は夢中で
* * *
※さ
↓挿し絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16817330665771320163
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます