第2話
長い長いあての無い旅の果てにたどり着いたのは、こんな結末か。
風吹き荒むあばら屋で一人、床とも呼べない寝床で今まさに命尽きようとしていたグエンは、幸せだった遠い過去に思いを馳せる。
守り神を手にかけたグエンは、半ば逃げるように、着の身着のまま村と街を捨てた。
ここまで自分は愚かだったのかと、毎晩うなされ後悔し、何度死のうとしたか。
しかし、守り神の呪いなのか、死ねずにズルズルと生きてしまった。
老木のように痩せ細り、土埃のように乾燥しきった手に視線を向けると、一度だけ触ったメイリンの髪を思い出した。
愛していた。結ばれると思っていた。それを壊したのは自分だと言うのに。
がむしゃらに旅を続け、行く先々で人助けをし、聖人だなんだと呼ばれることもあった。
聖人なものか。
善人になれば許されると思っていた。許されたかった。
愛するものを傷付け、取り返しのつかないことをしたのに、許されようとした。
旅の途中で、メイリン――金のユニコーンと会えるかも知れないと淡い期待を抱いていた。
会って謝りたい。楽になりたい。許されないと分かっていても、身勝手でも、それでも愚かにも許されたかった。
しかし今日まで五十年、終ぞメイリンと会う事は無かった。
あばら屋の戸がガタリと外れ、風がスッと抜けていった。
その風の中に、いつかかいだ懐かしい匂いを感じ、グエンはうっすらと目を開けた。
もうほとんど見えない目に飛び込んできたのは、金色。
それ自体が発光しているような、豊かな金色だった。
「随分みすぼらしくなったわね、グエン。死に顔を見に来てあげたわ」
今もはっきりと思い出せる、遠い昔に聞いた声。
「メイ……」
手を上げる力も無いグエンは、力を振り絞り金色の方へと顔を向ける。
「貴方には昔の話でも、永きを生きる私には最近の事。決して許さないわ」
何度も頷くグエンの目に、枯れ果てたはずの涙が溢れていく。
それでも、それでも最後にひと目会えた。声が聞こえた。
愚かにも、グエンはそれだけで満足だった。
微笑みを浮かべ清々しく逝ったグエンを、しばらく見詰めていたメイリンだったが、ふっと息をついた。
「愛していたわ。あの時から今日まで、ずっと。……ねぇ、知っていた? 番を失った金のユニコーンは、番の魂を食べて永遠に一つになるの。しょうがないから、持って行ってあげるわ。私の中で、未来永劫許されない苦しみを味わうが良いわ。愛していたわ、グエン。おやすみなさい」
メイリンの婿取り チャヅケ=ディアベア @olioli_kuma
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