第23話 漫画家とメイド少女、お茶会を開催する ③
** naoyuki side **
尚之の他は全員メイドという厳しい環境の中、尚之は彼女たちに楽しんでもらおうと頑張って話題をふる。
「朱鷺川さん、これってスコーンですよね。どうやって食べるか聞いてもいいですか?」
尚之がそう言ってケーキスタンドのきつね色の塊をつまみ上げる。
すると瑠々が尚之の元に風の如く歩み寄る。
「はい。スコーンは横半分に割っていただきまして――こちらのクロテットクリーム、それからお好みのジャムを塗ってお召し上がり下さい」
説明された通りに食べてみる。ほろっとした食感がとても美味しい。
それを見ていた揚羽と詠海も
「あら、美味しいわね」
スコーンを紅茶で飲み下した揚羽が感想を述べる。
そこからはしばし食べ物の話で盛り上がった。
結局、給仕はすべて瑠々にやってもらうことになてしまった。
尚之も手伝うつもりだったが、彼女の仕事が完璧すぎて手伝う余地が無い。
瑠々のおかげで今のところ、お茶会はとても良い雰囲気を保てている。
このまま何事もなく終わって欲しい。そう切に願う尚之だった。
** ruru side **
幼少時からメイド関連の本を読み漁ってきた瑠々の頭には、紅茶文化についての知識が蓄積されていた。
紅茶や菓子についての質問に淀みなく答える瑠々に、揚羽は感心する。
瑠々の方は、揚羽の質問に答えながら「これが先生の好きな人か……」とか、「ロザリーちゃん、結構低い声してる」とか、「ロザリーちゃんのメイド服私も欲しい」とか、様々な雑念を浮かべていた。
一通り食べ物の話題で盛り上がると、揚羽から「朱鷺川さんも席についてゆっくりお話しましょう」という提案がなされた。もちろん瑠々は快く了承する。
良きタイミングなので揚羽のお土産のパウンドケーキも切り分け、いただくことにした。ブランデーの酒精が強いがとても美味しい。
席についた瑠々は、揚羽と軽い雑談を交わす。揚羽は麻里江のクセのある演技が好きらしい。揚羽に母を褒められると妙に嬉しくなる。
そしてメイド服を父と一日で作った話をしたら、揚羽は父のことも褒めてくれた。揚羽も自分で服を作ったことがあるが数ヶ月かかったそうな。
少し話しただけだが、瑠々は揚羽のことをとても魅力的な人だと感じた。綺麗で博識でトークにたまの冗談も面白い。
この人に惹かれる気持ちがわかるなあ、と思ってしまったのだ。
瑠々の心はすでに、諦めの感情で締められていた。自分がおじゃま虫だと理解するととても切ない。しかし恋愛を諦めた分、純粋にメイドとして頑張りたい気持ちは強くなった気がした。
詠海と話しはじめた揚羽を見て、せめて今日のお茶会がみんなにとって素敵な思い出になるよう、メイドとして頑張ろうと誓う瑠々なのだった。
** yomi side **
詠海は揚羽の気持ちを確認するきっかけが掴めず、どうしようか悩んでいた。
というか、お茶会が楽しくてカップリング計画については後回しになっていた。
友達のいない詠海にとって、パーティーに参加するのは初めてである。
メンバーは親しみを持っている者ばかりだし、食べ物はとても美味しい。
メイド服は恥ずかしかったが、それを差し引いても充実した時間であった。
計画の遂行をためらう理由は他にもあった。
健気にメイドに徹する瑠々を見ると、やはり少々気の毒になってしまう。
だが、尚之とくっついた揚羽に可愛がられる妄想をしてきた詠海には、尚之と揚羽のカップリングは悲願だった。
何とか揚羽の気持ちだけでも聞き出したいと、詠海はパウンドケーキを頬張りながら恋バナを切り出すタイミングを窺っていた。
そんな詠海に、揚羽が話しかけてきた。
昔色紙をもらった話や尚之との仲について言葉を交わす。
普段尚之以外と会話しない詠海は、緊張でガチガチになってしまう。
微笑ましい目で見てくる瑠々が腹立たしい。
それから揚羽に「漫画は描いているのか?」と問われた。
詠海は言葉が返せず固まってしまった。が、横から瑠々がフォローを入れてきた。
「詠海ちゃん、お話を考えるのが苦手なんでしたっけ」
瑠々の言葉で詠海は再起動をはたす。
とりあえず、瑠々の話に乗っかっておく。
「か、描こうにも何を描いていいかわからなくて。あの、話作りのコツはありますか?」
詠海がたどたどしく言葉を絞り出した。
そんな詠海の問いに揚羽はしばし考え、答える。
「そうね。まずは日本の読者が触れなそうな小説や映画の設定をパク」
「おっと姫小路先生。妹に妙な知識を吹き込むのは止めて下さい」
揚羽の冗談にすかさず尚之がツッコミを入れる。
息がぴったりで楽しそう、と詠海は思った。
「失礼。月並みだけど、普段考えてることをネタ帳に記録しておくのがいいんじゃないかしら。読者にひけらかしたいネタができたらあとは読ませる技術の問題だから」
「なるほど! ネタ帳ですか! わかりました、今日からつけてみます」
「おい、それ私へのアドバイスなんだけど」
人へのアドバイスを勝手に実践しようとする瑠々にツッコミを入れておく。
そんな詠海と瑠々のやりとりに、今度は尚之と揚羽がフフっと笑う。
結構打ち解けた雰囲気になってきた、と詠海は感じた。
詠海は、揚羽の気持ちを確認するなら今だろうと思い立つ。
なぜか頭がホワホワして気が大きくなっているが、そんなこと今は問題ではない。
というわけで、詠海は立ち上がって揚羽に問いかけた。
** ageha side **
「あの、姫小路先生っ。尚之兄のこと、どう思いますか?」
突然立ち上がった笑午の妹が、揚羽にそう質問してきた。
予想外な方向からの予想外な質問だ。
尚之は妹から発せられた言葉に固まっており、瑠々は詠海を見て驚いた表情をしている。
さて、なんと返すべきだろう、と揚羽は顎に手を置く。
もしかすると、詠海は揚羽と笑午をくっつけたいのかもしれない。
揚羽は揚羽で、笑午と瑠々が互いにどう思っているのか探りたいと考えていた。
とにかく、ここで既婚者であることをバラすのは面白くない。
そんな揚羽の頭上に、ひらめきの電球がピカッと光った。
「そうね、答えてあげてもいいわ。ただしアタシとゲームで勝負し、詠海さんが勝てたらね」
揚羽の言葉に詠海が「えっ?」っと戸惑う。
「人の心を知りたいのなら、それなりのリスクを負うのが道理ではなくて?」
「リ、リスクってなんですか?」
「あなたが負けたら、あなたの隠し事をここで告白してもらうわ」
「ぐ」
詠海が唇を噛んでうつむき、再び顔を上げて応える。
「わ、わかりました。挑戦します」
「フフ、いい度胸ね。千本柿先生と瑠々さんも見ているだけでは退屈でしょう。ご一緒にゲームに興じてはいかがかしら?」
揚羽の言葉に笑午が嫌そうな顔をする。
「いえ、私は結構です。それより人の家で妙な事を始めないで欲しいのですが」
「あら、パーティーにゲームはつきものではなくて? それとも千本柿先生はアシスタントとして全力を尽くしたアタシ達のためにゲーム以上の特別な余興でも用意してくれているのかしら」
揚羽が観念しろという念を込めて笑午を見つめる。
思惑通り、嫌々ながら笑午は頷いた。
「わかりました。ですが朱鷺川さんは参加しなくても良いでしょう」
笑午がそう言うと、流れについて行けず困惑していた瑠々が、顔つきを変えて応えた。
「いえ良くわかりませんが、先生が戦うのにメイドの私が見ている訳にはいきません。たとえそこが地獄でも、私は先生にお供します!」
そう言って瑠々が立ち上がり拳を握る。
気分が昂っているのか顔が赤くなっている。というか、目が座っていてちょっと怖い。ともあれ、揚羽としてはやる気があるのは大変結構である。
さて、全員をゲームの舞台に上げることができたところで、勝負の内容を発表する。
「今日私達が戦うゲーム――――それは、メイデンハーツカルトクイズよ!」
揚羽の言葉を聞いたその場の全員が、クイズ?と戸惑いつつ、だがそれならイケると心で勝利を予感する。
揚羽によって説明されたルールは次の通り。
・一人ずつメイデンハーツに関するクイズを出す(問題は自分が答えられるものに限る)
・回答者は紙に答えを書いて一斉にオープン
・一巡したところで不正解の多い者から脱落
・最後の一人が生き残ったところで勝負あり
・敗者の3名は、自分の隠し事を告白する。
以上である。
というわけで、チーム千本柿同士の熱い戦いの幕が今切って落とされるのだった。
アシスタントはメイドさん ~猫の手も借りたい漫画家が渋々雇った女子高生は仕事も家事も完璧な美少女メイドでした~ あきかん🥫 @Saguinus
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