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WoooTubeの動画で、廃墟が舞台になったものがあったはずだ。確か、みつちさんが出たと証言されていた。少女は黒い着物を着ていた。
ここでも嫌な偶然にぶち当たる。叶が一年前から見ていた黒い着物のあれがみつちさんだとしたら、死んだ水葉が着ている黒い着物との共通点は何を意味しているのだろう。しかも、夢の中の希も黒い着物を着ていた。
なぜか水葉の話になった途端、一夜の口が重たくなった。
叶は一夜の態度に気づき、もしや、水葉は廃墟で自死したのでは、と考えた。そして、何らかの理由でみつちさんと勘違いされるようになったのではないか。
それならば、道祖神を建てる意味がある。道祖神は外からの侵入ではなく、内から浸食されないように菟上家を守っている。おみず沼は、菟上家にとって畏敬と恐怖の象徴なのだろうか。
「そういえば」
叶は思い切って訊ねてみた。
「廃墟にあった道祖神、壊れてましたけど、修理しないんですか」
「また壊されてたんだ……。あそこだけしょっちゅう壊されるんだよ。心霊スポットだとかいって、町から来る連中がいたずらに壊すんだ」
困った奴らだと腕を組み、一夜がぼやいた。
叶は直にみつちさんの話を聞こうと思い、知らず知らず声を潜める。
「あの……、みつちさんって知ってますか? 実は大学の講義で菟足村の怪談を調べてるんですけど、みつちさんってなんなんですか?」
問われて、戸惑ったように一夜が口を開く。天水が答える
「みつちさんは女の姿をしてる、そのくらいのことしか分からない。俺はみつちさんに友人が声をかけてるのを見た。俺が返事をしたわけじゃないけど、その場にいるだけでもだめだと思ったんだ。それで一度、希さんに祓ってもらった」
「どこで見たんですか」
「廃墟」
叶は自分が考察したことが、みつちさんの現象に近づくのを感じて少しわくわくした。
「みつちさんは黒い着物を着てるんですか」
一夜が考え込んで答える。
「黒い着物って言う人と黒いワンピースって言う人もいるな」
叶は思わず呟く。
「黒い振り袖……。小槌や鞠の柄……」
それを聞いた一夜が目を丸くして驚く。
「小槌や鞠……? 宝尽くし柄の振り袖は巫女装束だよ。巫女装束としては珍しい物だから、他で見ることはないと思う」
「でも巫女服って赤と白じゃないんですか? それに振り袖って……、昔からなんですか?」
「振り袖自体はかなり昔……原型としては飛鳥時代からあるらしいし。黒い色かどうかは分からないけど、巫女装束が定着したのは江戸初期からじゃないかな? それが何故、巫女装束になったかまでは俺も分からないんだ。神様と交信できる巫女なら分かるかも知れないけど」
叶は自分が今まで見てきた黒い振り袖が、実は巫女装束かも知れないと聞き、やはり一年前から見ていた夢やずぶ濡れの足の正体は、希だったのだと確信した。
それだけじゃなく、廃墟で撮れた画像の女も同じ振り袖を着ていた。廃墟で自死したとしたら、水葉で間違いないだろう。死んでも尚、巫女である自分自身を捨てきれなかったのか。その上、みつちさんまで同じ振り袖を着ているのは不思議だった。
「みつちさんが同じ振り袖を着ているのは、何か意味があるんでしょうか。一夜さんは廃墟で見た人がどうしてみつちさんって気付いたんですか」
「みつちさんが何故黒い振り袖を着ているかは分からないな。廃墟でみつちさんに魅入られたときは、さすがに最初は騙されたけど、懐中電灯も持たず廃墟探索に、しかも着物で来るなんて、おかしいだろ。閉鎖されていた玄関を開けて中に入ったときに違和感を感じたんだ」
そこまで聞いて、なんとなく一夜がだれなのか、叶は察しがついた。
「もしかして、WoooTubeでライブ放送してなかったですか」
一夜が不意を突かれたような驚いた表情を浮かべた。
「そうだけど……、だれから聞いたの」
「WoooTubeで見たんです。あの雑音で聞こえなかった名前は、菟上家のことですよね」
一夜は肯定も否定もせずに続ける。
「あのとき、みつちさんだと気づかなかったら、俺はおみず沼で溺死してた。希さんに祓ってもらったおかげでこうして生きてる」
「希ならなんで安心なんですか? みつちさんがまた来るって思わないんですか」
一夜が苦笑いを浮かべる。
「まだ、おみず沼に引きずり込まれてない時点で、祓えてるってことだろうな。希さんはとても霊力が優れていたから……。むしろ、美千代さんに祓ってもらった君のほうが気をつけるべきなんじゃないかな」
「どういうことですか。美千代さんに霊力がないせいですか?」
「まぁ、そういうことだね……。ところでこの辺りは見て回った?」
一夜に訊ねられて、叶は素直に、
「おみず沼周辺はここに来る前に、一度見て回りました」
「写真も撮ってたものね」
一つだけ場所がわからず、回ってないところがあった。
「『おかみさま』の祈祷場は、この屋敷の中にあるんですか?」
「いや、鳥居を知ってるよね? あそこにあるんだよ」
そう聞くと、改めてもう一度見てみたいと思い、身を乗り出した。
「見に行きたいです。時間はありましたっけ?」
一夜が腕時計を見る。
「今、十二時半前だから、一時間くらいなら時間がとれるよ」
叶を連れて、祈祷場を一夜が案内することになった。
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