5
「霊力のある跡継ぎばかり、どうして亡くなったんですか。何かに呪われてたんですか? だっておかしいじゃないですか。霊力のある巫女ばかり二代続けて……。希も入れたら三代、亡くなったんでしょう? 偶然だと思いますか」
何かがあったのだ、と叶は考えた。
「今までとは違う、何かが起こったんじゃないですか」
すると、一夜が気まずそうに口をへの字にして考え込んだ。あまり口外したくない様子だった。
じゃあ、と腹立ち紛れに、叶は口走った。
「家系図を見せてください。本当に菟上家だけが継いできたか確かめたいです」
一夜に家系図を持ってくるように強く言った。
「分かった。しばらく待ってて」
それだけ言うと部屋を出て行き、しばらくして戻ってきた。
「持ってきたよ。希さん達のアルバムもあった」
一夜が家系図と三冊のアルバムを座卓に置いた。
掛け軸状にまとめられた、女系の家系図を見て、叶は大体のことを理解できた気がした。あからさまに男性の名前は排除されている。
「この朱墨は亡くなった印ですか?」
娘の二人のうち一人は確実に亡くなっている。それは江戸時代初期から近代まで、全部同じだ。途中から改変されているわけではなさそうだ。享年だけがまちまちだが、大抵早死にしている。そして、その後、残された娘が当主になっているのだった。
「江戸時代からの家系図みたいですけど、それ以前はないんですか?」
「うちに残されているのはこれだけ」
と一夜が答えた。
叶は一番初めに名前を書き留められた当主から順に、現代までの当主の名前を眺める。姉、妹関係なく、古くは二人姉妹でもなかったようだ。
霊力を授かった娘が生まれるまで、続けられている。明治時代に入ってから、美都子以外は姉妹二人に絞られたようだが、名前が書かれていないだけかも知れない。叶のように養女に出された女児もいただろう。
「これって、霊力のある人が死んだ後、霊力のない人が跡を継いでるんですよね」
「跡を継いだ女性は子供を産んだ後、亡くなったそうだよ。理由も原因も伝わってない」
本当に知らないのか、一夜はじっと家系図を見ている。
「これが美千代さんと妹の水葉さん」
一夜が家系図の下のほうを指さした。水葉という名の下に享年が書かれている。
「二十歳で亡くなったんですか……」
美都子も二十歳。叶と名前を連ねている希は朱墨で十九歳と書かれていた。
確かに祟りと言われるだけあって、美千代の代で、本家の女がほぼ亡くなっていた。おそらく男子もいただろうが、女系の家系図なので、配偶者同様、記載されてない。
それだけではない。連綿と続く、当主である巫女の夭折。何か見落としてないか、と叶は家系図を睨みつけながら考えた。
菟上家は『おかみさま』を信仰し祀っている。江戸時代以前、菟上家は大蛟との約定で『乙女をたくさん捧げる』ようになった。これが人身御供伝説に繋がる。
この朱墨で記された娘たちは、まさか本当に神に捧げられたのだろうか。だとしたら、代々当主が夭折する理由になる。
叶は掛け軸を脇に置き、希のアルバムを開いた。菟上家に来たとき、不躾に見られたのも仕方ないと思った。希はロングヘアだが、雰囲気も顔立ちも双子だけあってか、うり二つだった。
美都子のアルバムを開き、生母を初めて見た。とても華やかな女性で、自信にあふれた表情を浮かべてカメラを見つめている。
一番古い、美千代と水葉のアルバムを開いたとき、叶は思わず声を漏らした。
「この人……」
「どうしたの?」
叶が何に驚いたのか、一夜もアルバムを覗き込む。
「これ」
持ってきていたハンドバッグからデジカメを取り出して、叶は廃墟で撮った画像を二人に見せた。
「水葉さんに似てませんか」
ぼやけているが、目鼻立ちはわかる。確かに画像の薄気味悪い顔は、どことなく水葉にそっくりだった。
アルバム写真の水葉は大人びた少女で、長い黒髪を垂らし、艶然と微笑んでいるが、画像の顔からは陰鬱で恨みがましそうな表情しか読み取れない。それでも目鼻立ちは確かに水葉だ。
「似てるね」
一夜が同意した。
「廃墟にだけ写ってるんです。何か関連性というか、理由を知ってますか?」
「いいや」
一夜が首を振った。
水葉がいつ死んだのか、享年の下部には一九七四年とある。
「水葉さんはどうして亡くなったんですか」
一夜が答える。
「水葉さんは自分で命を絶ったんだよ」
「命を絶った……」
「そう」
水葉は自死したのか。叶はあの廃墟のことを思い起こす。
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