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「霊力のある跡継ぎばかり、どうして亡くなったんですか。何かに呪われてたんですか? だっておかしいじゃないですか。霊力のある巫女ばかり二代続けて……。希も入れたら三代、亡くなったんでしょう? 偶然だと思いますか」

 何かがあったのだ、と叶は考えた。

「今までとは違う、何かが起こったんじゃないですか」

 すると、一夜が気まずそうに口をへの字にして考え込んだ。あまり口外したくない様子だった。

 じゃあ、と腹立ち紛れに、叶は口走った。

「家系図を見せてください。本当に菟上家だけが継いできたか確かめたいです」

 一夜に家系図を持ってくるように強く言った。

「分かった。しばらく待ってて」

 それだけ言うと部屋を出て行き、しばらくして戻ってきた。

「持ってきたよ。希さん達のアルバムもあった」

 一夜が家系図と三冊のアルバムを座卓に置いた。

 掛け軸状にまとめられた、女系の家系図を見て、叶は大体のことを理解できた気がした。あからさまに男性の名前は排除されている。

「この朱墨は亡くなった印ですか?」

 娘の二人のうち一人は確実に亡くなっている。それは江戸時代初期から近代まで、全部同じだ。途中から改変されているわけではなさそうだ。享年だけがまちまちだが、大抵早死にしている。そして、その後、残された娘が当主になっているのだった。

「江戸時代からの家系図みたいですけど、それ以前はないんですか?」

「うちに残されているのはこれだけ」

 と一夜が答えた。

 叶は一番初めに名前を書き留められた当主から順に、現代までの当主の名前を眺める。姉、妹関係なく、古くは二人姉妹でもなかったようだ。

 霊力を授かった娘が生まれるまで、続けられている。明治時代に入ってから、美都子以外は姉妹二人に絞られたようだが、名前が書かれていないだけかも知れない。叶のように養女に出された女児もいただろう。

「これって、霊力のある人が死んだ後、霊力のない人が跡を継いでるんですよね」

「跡を継いだ女性は子供を産んだ後、亡くなったそうだよ。理由も原因も伝わってない」

 本当に知らないのか、一夜はじっと家系図を見ている。

「これが美千代さんと妹の水葉さん」

 一夜が家系図の下のほうを指さした。水葉という名の下に享年が書かれている。

「二十歳で亡くなったんですか……」

 美都子も二十歳。叶と名前を連ねている希は朱墨で十九歳と書かれていた。

 確かに祟りと言われるだけあって、美千代の代で、本家の女がほぼ亡くなっていた。おそらく男子もいただろうが、女系の家系図なので、配偶者同様、記載されてない。

 それだけではない。連綿と続く、当主である巫女の夭折。何か見落としてないか、と叶は家系図を睨みつけながら考えた。

 菟上家は『おかみさま』を信仰し祀っている。江戸時代以前、菟上家は大蛟との約定で『乙女をたくさん捧げる』ようになった。これが人身御供伝説に繋がる。

 この朱墨で記された娘たちは、まさか本当に神に捧げられたのだろうか。だとしたら、代々当主が夭折する理由になる。

 叶は掛け軸を脇に置き、希のアルバムを開いた。菟上家に来たとき、不躾に見られたのも仕方ないと思った。希はロングヘアだが、雰囲気も顔立ちも双子だけあってか、うり二つだった。

 美都子のアルバムを開き、生母を初めて見た。とても華やかな女性で、自信にあふれた表情を浮かべてカメラを見つめている。

 一番古い、美千代と水葉のアルバムを開いたとき、叶は思わず声を漏らした。

「この人……」

「どうしたの?」

 叶が何に驚いたのか、一夜もアルバムを覗き込む。

「これ」

 持ってきていたハンドバッグからデジカメを取り出して、叶は廃墟で撮った画像を二人に見せた。

「水葉さんに似てませんか」

 ぼやけているが、目鼻立ちはわかる。確かに画像の薄気味悪い顔は、どことなく水葉にそっくりだった。

 アルバム写真の水葉は大人びた少女で、長い黒髪を垂らし、艶然と微笑んでいるが、画像の顔からは陰鬱で恨みがましそうな表情しか読み取れない。それでも目鼻立ちは確かに水葉だ。

「似てるね」

 一夜が同意した。

「廃墟にだけ写ってるんです。何か関連性というか、理由を知ってますか?」

「いいや」

 一夜が首を振った。

 水葉がいつ死んだのか、享年の下部には一九七四年とある。

「水葉さんはどうして亡くなったんですか」

 一夜が答える。

「水葉さんは自分で命を絶ったんだよ」

「命を絶った……」

「そう」

 水葉は自死したのか。叶はあの廃墟のことを思い起こす。

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