【WoooTube配信者Mの話】

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「皆さん、こーんばーんわー! 生でどうぞ心霊スポットとつチャンネルのウタでーす! おなじみhiroとカメラマンのNIGHTでお送りしてます! 今夜の心スポは、じゃじゃーん」


 ウタと名乗る、髪をピンク色に染めた十代の少女が、画面に映り込む。顔のアップなので、おそらく間近でビデオカメラを自分に向けているのだろう。すぐに画面が切り替わり、短髪を黄色く染めている少年が、両手の人差し指を上に向けて、おどけている。背景には闇夜にライトで浮かんで見える、コンクリート打ちっぱなしの年代を感じさせる建物が映り込んでいる。


「いえーい、hiroでーす。生でどうぞ、U少年自然の家に来てまーす。みんなは廃墟に入っちゃだめだよ。俺たちは心スポ凸のプロなんで大丈夫だけど、素人さんは気をつけてね!」


 画面の外から指が突き出され、その指がピースしている。


「おなじみ、カメラマンのNIGHTです」


 画角外から、ぼそりと少年の低い声が聞こえた。ウタがビデオカメラをNIGHTに手渡して、廃墟にライトを向ける。


「じゃあ、早速凸しますか!」


 NIGHTがビデオカメラを廃墟に向けて煽りで撮る。そこに映された灰色の建物は、ライトの光が当たった部分以外は闇に溶けて輪郭もわからない。時折、割れている窓ガラスが光を反射している。廃墟の周りには風が吹きすさび、マイクがぼぼぼぼと風の音を拾う。マイク感度を下げたせいで、配信中のhiroとウタの会話が聞き取りにくい。NIGHTが視聴者に告げる。


「イヤホンの人、耳がー・・・に注意です。感度あげます」


 その途端、風の音とともに聞こえにくかった先頭を行く二人の会話が、大きく聞こえるようになった。


「ここには何か曰くがあるんですかー?」


 ウタの質問に、hiroがわざとらしく、事前に用意しておいた、巨大掲示板に投稿された怖い噂話を語り始めた。


「県営のU少年自然の家を県が手放して、結局放置されている理由は知ってる? ここに宿泊した小学生や家族連れの子供たちが、次々とおみず沼で溺れ死んだ。普通だったら数年に一度でも多いけど、この少年自然の家では毎年五人は確実に溺れて死んだって噂があるんだ。しかも、雨の日に限って、子供がいなくなっておみず沼に上がっているのが発見される。偶然か必然か! いつしかここは呪いの自然の家と呼ばれるようになって、観光客や利用客が激減し、運営困難になって潰れたってわけ。さて、玄関が封鎖されているので、窓から中に入ります! 素人さんは真似したらだめだぞ! 怪我をするからな!」


 hiroが地面に落ちている朽ちた木材を手にして、割れて鋭利なガラスが飛び出している窓枠を、さらに叩いて粉々にした。


 慎重に割れたガラス片を払い除け、よじ登って飛び越えた。屋内からガシャガシャと音がして、「早く来いよ」と声がする。


 ウタが恐れもせず、窓枠に足をかけて中に入る。


 カメラをウタに手渡し、NIGHTも続いた。顔出しNGのNIGHTを映さないように、ウタがすっとカメラの向きを内部に向ける。ガラクタやゴミ、置き去りにされた備品などを前にして、hiroが仁王立ちになっている。パイプ椅子、折りたたみの机が放置されている。


 hiroが何やら紙を取り出して眺めた後、「ここは以前、会議室だった模様。じゃあ、問題の二階に行くよ! 二階で幽霊の目撃情報が多発しているんだ」と、廊下に続く半壊のドアから部屋を出た。


「行っくよ〜!」


 と、カメラをNIGHTに手渡したウタがその後ろに続く。カメラは入ってきた窓、崩壊した部屋をぐるりと撮し、廊下へ出た。廊下の左右にレンズを向けた後、地図を持って目的の場所に向かって先を行くhiroについて行った。


 あっけなく二階のフロアにたどり着いて、hiroもウタも不満そうだ。


「何も無いですねー」

「幽霊もびびって出てこれないのかなー?」

「ちょっとは恐がれよ〜」


 二人はふざけながら、廊下を歩く。


 二階よりは荒れてはいないが、カーペットが敷いてある床には、天井から落ちた木材や、割れた窓ガラスの欠片、紙屑、吹き込んだ葉っぱや壊れた備品が散乱している。


 一階もかなり朽ちて荒れ果てた雰囲気が漂っていたが、二階はそれ以上だった。


 侵入した奴らがドアから壁まで何かで叩き壊したのか、穴が開いて、凹んで歪んでいる。ドアノブを回さなくても部屋の中がよく見える。


 奥に進むと宿泊施設に繋がっていて、廊下の両側に並ぶ和室の出入り口のふすまに、ききょうだのあじさいだのといった花の名前が書いた板がかかっている。


 ふすまの表面も通り過ぎた部屋の扉同様、穴を開けられて落書きされている。


「いけないですねー、素人さんは。廃墟でもいたずらしたり壊したりしちゃいけないよ〜。それにしてもかび臭いね。廃墟は大抵かび臭いけど!」


 ウタがふすまに手をかけて開けようとしたが何かに引っかかって開かない。仕方なく、手に持った懐中電灯をふすまにあいた穴に差し入れて、中を照らす。カメラのレンズが中を撮す。


 中綿が引っ張り出された布団や外されて立て掛けられた畳、障子には穴が開き、やはり窓ガラスは割られている。


 ふすまには腐って崩れた畳がのしかかり、つっかえ棒のようになって、開かなくなっていた。和室はほぼふすまを開けることができず、hiroががっかりした声を漏らし、両腕を振って大げさなジェスチャーをする。


「ざんねーん! どうも吹き込んだ雨か何かで畳が腐っちゃってふすまが開きません。こっちは諦めて、共同トイレを見てみようか!」


 映像は順々に廃墟の部屋を回って、二時間ほどで一階に戻ってきた。入るときに開けた窓から外に出て、もう一度カメラが下から上に向かって廃墟を撮す。


「視聴者のみなさーん、U少年自然の家、どうだった? 思った以上に荒れてたねー。やり過ぎ素人さんが多かったみたいだね」


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