アフター 『明滅』
「――ねえ、エル。あなたが行ってしまってから、どれだけ経ったかな?」
妖精女王、『明滅』の魔女、アリアは湖の畔で、独り言つ。
ここは霊山の中のどこかに在る、妖精の里。
周囲には小鳥程の大きさの小さくて悪戯好きな妖精が、何人かふわふわと透き通った蝶の様な羽を羽ばたかせ飛んでいる。
アリアはアルバスとエル――たった二人の勇者一行と共に、黒い島で戦った。
その最終決戦に参加した後、またこの里へ帰って来ていたのだ。
これがアリアの本来の役目、妖精たちの取りまとめとして、この里で女王として生きるのだ。
それでも、時折あの頃の事を思い出して懐かしみ、そして寂しさを覚えてしまう。
「あなたも、そしてアルバスも、ナナも、シータも、みんな居なくなっちゃった。でも、この世界は何も変わっていない……」
あの戦いから、数十年? それとも数百年?
もうアリアにはどれ程の時間が経ったのか、正確には分からない。
それでも、妖精女王であるアリアはそれ程の長い時を生きた。
しかし、この世界での人の営みは同じ事の繰り返しだ。
魔王は討たれた、世界は救われた、そのはずだ。
しかし、この世界は文明は進歩せず、世界は停滞している。
変わった事と言えば魔法が発達し、そしてそれが魔道具という形で一般での利用が出来る様に普及し、それに伴い唯一性を失った魔法使いは衰退していった。
それくらいだ。
「あなたの望んだ世界は――、ううん。“リエル様”の望んだ世界は、こんなはずじゃなかったよね。まだ、何か有ると言うの? 魔王を倒しても、足りないの?」
世界はもっと美しく、そして大きく広がって行くべきだ。
もっと沢山の色に彩られて、眩いばかりの色とりどりの宝石の様な、そんな幸せに溢れているべきだ。
そのアリアの訴えに、答える者は居ない。
もうこの世界に、『結晶』の魔女、エルは居ないのだ。
エルはアルバスと共に魔王が討たれ平和となった世界で生き、そして共に老いて、天寿を全うしていった。
だから、エルとしての彼女はもう居ない。
「ねえ、リエル様。また私たちの前に現れてよ。今度はエルじゃなくっても良いの。どんな姿でも、どんな形でも良い。まだ終わっていないはずよ。なのに、どうして?」
その声もまた、妖精の里の空へと消えてく。
満天の星々も、里を照らす大きな月も、全てアリアの寂しさを、心の穴を、埋めてくれはしなかった。
――それから、またしばらくの時が過ぎた。
しかし、やはり世界は停滞したままだ。
人々は田畑を耕し、馬車を引き、いつもと変わらない営みを繰り返している。
アリアはそんな世界をぼうっと妖精の里から眺めていた。
しかしある時、とある場所に一つの違和感が産まれた。
それが何なのか、アリアには分からなかった。
感じた事無い感覚、でもどこか懐かしい様な……。
これは誰だろう? それとも、何だろう?
そんな興味を惹いた何かとアリアが邂逅するのは、そう遠い未来では無かった。
その何かはゴーフ村を抜けて、霊山を登り、向こうからこちらへとやって来たのだ。
里の小さな妖精たちもその何かに興味を示して、里を出て霊山に遊びに行ってしまった。
アリアは里の中で、じっと待つ。
そうしていると、声が聞こえて来た。
「――あなたたちの里を、見てみたかったんです」
それは霊山から、妖精の里へと入って来る。
妖精たちは泣きながら、それから逃げる様に一目散にアリアの元へと飛んで来る。
「え? えっと、え? 嘘――」
アリアは動揺を隠せなかった。
目の前に現れた何か――。
夜空の様に美しい黒一色の長髪、そして宝石の様に輝く紫紺の瞳、耳は長く尖った特徴的な形。
――――――
実はこの物語は拙作「少し遅れた異世界転移 〜死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく〜」と世界観が繋がっています。
二つの物語を繋ぐお話として、今回アフターを書いてみました。
主人公など変わりますが、同じ舞台で繰り広げる旅の物語です!
後に少しだけアルバスやエル、他の魔女たちやその子孫たちも登場したりするので、気になったら読んでみてください!
【完結】物語はゲームオーバーから始まる ~死神と呼ばれた勇者は最強の魔女と出会い、再び立ち上がる~ 赤木さなぎ @akg57427611
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