第2話
約1秒の間重力に身を任せて空気に逆らい落下すると、一面がコンクリートで出来た小部屋の中心に置かれたベッドの上に放り込まれた。かびたマットレスから細かい埃や塵がもわりと舞った。
ここは紛れもなく路地裏に無数に隠されている、雅娟の隠れ家であった。
ベッドから硬質な地面に降り立つと、雅娟はそのまま目の前にいる人物の肩に手を置いた。
小さく悲鳴を上げてゆっくり振り返っていたのは、華奢な少女だった。見た感じだと12、3くらいであろう。動揺に揺れるその瞳は、やはり透き通るような紫であった。雅娟は曇ったアメジストを連想した。
彼女は窮地に陥った小動物のように怯える少女の様子をものともせずに少女にじりじりと詰め寄った。少女は1歩ずつ後ろに下がったが、手に壁を感じ、これ以上逃げることが出来ないことを悟り、固く目を閉じた。それと同時に、雅娟は左手に持った赤黒く錆びたアイスピックを少女の首と頭の境に突きつけ、右手を喉を閉めるように首に添えた。
「ほら、何処から来たのか答えな、延髄を刺されたら死ぬことくらい分かるだろ?」
雅娟は網膜が焼け爛れるような視線を向けた。少女は泣きじゃくった。
「……村から、連れて来られ____」
蝿が泣くような小さい声を遮り、雅娟は躊躇うことなくアイスピックを数センチ押し込んだ。少女は反射的に腕を縮め、悲鳴を上げた。雅娟の手に柔らかい感覚が伝わると同時に、血がじわりと滲み、ぽたぽたと地面に落ちた。
「そんなこと聞いてない」
雅娟は語気に殺意を込めた。雅娟は左手はそのままに、屈んで少女と目線の高さを合わせ、少女の涙を右手で拭った。
「こんな陳腐な拷問くらいで泣くような人間だなんて思ってない。ほら、どこの誰なんだよ、言え」
「____知ってどうするつもり、殺す?」
少女は整然と言った。
「別にどうするつもりもないよ」
雅娟も笑った。
「ならそれを離して」
軽く、アイスピックを指さした。
「質問に答えたらね」
雅娟はその手を元の位置に戻した。
「なら、いいや」
少女の自信に満ちた声を聞いた雅娟は、なにかぴんと張られていた糸が切れた様な感覚がした。
「……ふーん」
ネオンの監獄 なぬか @winter503
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