しょうゆ味

美空重美

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バキバキ、ガリゴリ。おお、なんと! これはとても濃い音楽だ。咀嚼しなくても、音楽が体内に流れ込んでくる。醤油を一滴垂たして食べたらコクが出て、より深みが増しそうだ。ニヤリと笑い、下品に舌なめずりをする。


しかし、醤油を一滴だけ垂らすのは、実のところ結構難しい。垂れるか垂れないかのギリギリを攻めると垂れてくれなくて、じゃあもう少し角度をつけてみようと思うと、ボチャボチャと一気に垂れてしまう。一滴だけ垂らす、なんともいえない塩梅が必要なのだ。

CDはあと三枚残っていた。一回目は見事に失敗してしまい、ジャーッと注ぎすぎてしまった。これではただの醤油味だ。口一杯に広がる醤油の味を苦い顔をしながら食べ、二回目に挑戦する。今度は五滴垂れてしまったが、さっきより少ないし量も多すぎないので、これはまあ食べられる味になった。

残る一枚。三度目の正直。三回垂らそうとして失敗して、四回目にやっと、一滴だけ垂らすことに成功した。一滴だけ醤油が垂れたCDは、格別に美味しかった。何重にも扉があるように、開けても開けても終わりが来ないような美味しさだった。こんな音楽にはむこう数十年、出会えないだろう。最後の一枚をゆっくり噛みしめる。時折り現れる醤油の味を感じながら、いつまでも余韻に浸っていた。


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しょうゆ味 美空重美 @s_misora

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